「ドリカムアレルギー」という言葉を聞いたことがあるだろうか。人気アーティスト「DREAMS COME TRUE」(通称ドリカム)の楽曲にあまりいい印象を持たず、苦手感や拒否反応を示す言葉だ。
この「ドリカムアレルギー」が2017年4月18日の夜、ネットを中心に駆け巡った。きっかけは、18日に放送された「マツコの知らない世界」(TBS系)での、中村正人さんの発言だ。
頑張れとか希望とか夢とかを歌ってるのが苦手
この番組は、ゲストが得意ジャンルや、現在ハマっているものをマツコさんにプレゼンしていくという内容だ。この日のテーマは「ドリカムの世界」。ゲストは、「DREAMS COME TRUE」のリーダー、中村正人さんだった。
コーナーが始まってすぐ、「どうもドリカムが苦手だという方々がいる。マツコさんに象徴されるドリカムアレルギーをなんとかしたい」と、話し始めた。
マツコさんも、「嫌いではないけど、何がアレルギーの原因かって考えると、歌詞の世界観ですね。私からすると完全な夢を見させられている感じ」「ドリカムは幸せの象徴なのよ」と反応。自身がドリカムアレルギーであることを認めた。
このトークをきっかけに、Twitterでは
「斜に構えたヤツからするとなんか眩しすぎるんだよな。直視できない」
「『ドリカムアレルギー』じゃないのよ。吉田美和アレルギーなのよ」
「ドリカム限定じゃないけど、万人受けするような曲だったり、前向きとか頑張れとか希望とか夢とかを歌ってるの自体が苦手やわ」
「ドリカムアレルギーわかる............光・良い人・同調求め系がだめなんだわ」
「長年、DREAMS COME TRUEという人達に、何やら大変もやもやした、複雑な感情を抱いていたのだが、「ドリカムアレルギー」という大変判りやすい単語で言語化されたことによって、そのもやもやしていたものがいっぺんに具体的になり、非常にスッキリした気持ちであります」
など共感する声があがり、一時はトレンドワード1位にまでなった。
コメントを見てもわかるとおり、アレルギーの人は、吉田さんが書く歌詞の世界観、「愛」「頑張れ」「希望」といったポジティブさに拒否反応を示すようだ。
ドリカムは、1988年1月に結成。ヴォーカルとベースの2人編成で、全ての作詞を吉田美和さんが行っている。
1995年に発表したシングル「LOVE LOVE LOVE/嵐が来る」は240万枚以上の売り上げ。1992年の5thアルバム「The Swinging Star」は累計売上枚数300万枚を突破した。影響力は多岐にわたり、2006年に大和総研が「ドリカム人気が上がれば、株価も上昇する」という調査結果も発表している。
これほどまでドリカムの曲に勇気づけられた、というファンが多い一方で、アレルギーと呼ばれる人が出てくるのはなぜなのか? 心理学者の杉山崇氏に話を聞いた。
「○○アレルギー」はなぜ生まれる?
「ポジティブでなくてはいけない、前向きでなくてはいけない、という人たちにとって、ドリカムさんのような『信じていればきっと願いは叶うよ』というメッセージは非常に心地いい。それもキレイなメロディー、美しい歌声にのせて伝えてくれる。諦めそうな夢を励ましてくれる気分になれるんです。ただ、その一方で、『もう諦めてしまいたい人たち』『現実を見ている人たち』は、このドリカムワールドに違和感を感じます。耳障りという人もいるでしょう」
杉山氏によると、もともと日本人は夢よりも現実を見る人が多い国民性だという。ドリカムの世界観とは反しているが、なぜドリカムは国民に愛されたのか?
ドリカムが流行った90年代は、バブルの残り香がまだあった。「終わり」が分かっていつつもこの生活を手放したくないという「ポジティブ強迫」になっていた。そこに、ポジティブなドリカムの世界観がはまったのでは、と杉山氏は分析する。
そして時代は流れ、今は「さとり世代」の発信力が強まっている。
「さとり世代の人たちは、基本、現実を見ていますから。当時では『ドリカムはちょっと......』と言いづらい風潮も、徐々に緩和されていったのでしょう。そこに来ての『ドリカムアレルギー』という言葉。きっかけは番組ですが、一気に広まったのもうなずけます」
この「ドリカムアレルギー」をきっかけに、実は「○○アレルギーだ」という発言もSNSで広まりつつある。
ざっと見ただけでも、西野カナアレルギー、aikoアレルギー、大塚愛アレルギー、EXILEアレルギー、ミスチルアレルギー......など。いずれも、多くの人に影響を与えるアーティストばかりだ。
この○○アレルギーに対しても、杉山氏は、
「アーティストは世界観をもっています。有名になると聞きたくない人の耳にも入ってきてしまう。そこでついていけない人が出てくるのは当たり前なんです。でもね、アレルギーの人がいるということは、それだけ際立った『色』がある証拠です」
と、話す。
「色」があればあるほど、アレルギーを発症する人が多いのは仕方ないのかもしれない。