第2の人生が始まる定年退職は危険なターニングポイントでもある。心にポッカリ穴があく人が少なくないからだ。
その寂しさを酒で紛らわせると、どうなるだろうか――。アルコールの量が危険なレベルに達する人が1割以上いることがフィンランド政府の研究で明らかになった。特に普段からタバコを吸っている人は、吸わない人より4倍近くアブナイという。くれぐれも退職者は飲みすぎに気をつけよう。
退職者の1割以上が「危険な飲酒レベル」に
この研究をまとめたのは、フィンランド政府機関の労働衛生研究所とトゥルク大学の合同チーム。依存症の専門医学誌「Addiction」(電子版)の2017年3月3日号に発表した。アルコールが健康に与える研究は数多くあるが、定年退職者にしぼった研究は非常に珍しい。背景には、フィンランドでも戦後生まれのベビーブーマーの大量退職が社会問題になっているからだ。
同誌の論文要旨によると、研究チームはまず、「危険な飲酒量」を、純粋なアルコールに換算して男性は1週間に288グラム以上、女性は192グラム以上とした。ちなみに酒の1単位(アルコール20グラム)は、ビール中瓶1本、日本酒1合、ウィスキー・ダブル1杯だ。だから、男性の危険レベルは1週間でビールなら中瓶14.4本、日本酒なら14.4合、ウィスキー・ダブルなら14.4杯ということになる。女性なら、ビール中瓶9.6本、日本酒9.6合、ウィスキー・ダブル9.6杯だ。また、酒の強さに個人差があるので、過去1年間で経験した「とてもひどい飲み方」も危険な飲酒量に加えた。
研究チームは、2000~2011年の間に定年退職を迎えた男女5805人に、定年前に1~3回、定年後にも1~3回、飲酒に関するアンケート調査を行なった。その結果、次のことがわかった。
(1)全体の81%が、定年の前と後に健全な飲み方を続けていた。
(2)12%の人は定年後に飲酒量が急に増え、「危険レベル」に達した。
(3)逆に、職場の同僚との付き合いが減ったことなどもあり、定年前は「危険レベル」の飲酒量だったのに定年後に量が減った人が7%いた。
(4)定年後に「危険レベル」に達した人を詳細に調べると、タバコを吸う人は、吸わない人に比べ、「危険レベル」に達するリスクが3.9倍も高かった。これは、喫煙者は「依存症」の度合いが高く、退職のストレスの発散をアルコールに求めるためとみられる。また、男女差が大きく、男性は女性の2.8倍も高かった。