ボストン・マラソンで大迫傑(25=ナイキ・オレゴン・プロジェクト)が3位に入る快挙を達成した。
2時間5分30秒以内の記録をもつ選手が9人も参加したなか、タイムは2時間10分台で平凡にみえるが、終盤のスプリットタイムは世界トップレベルに肩を並べる驚異的なものだった。
レース前「1キロ3分4秒ぐらいのペースで淡々と」
第121回ボストン・マラソンは現地時間2017年4月17日午前に行われた。2時間2分57秒の世界記録保持者、デニス・キメット(ケニア)を筆頭に錚々たるメンバーが揃った。大迫は3000メートルで7分40秒09、5000メートルで13分8秒40の日本記録を持つが、マラソン初挑戦。
「いちいち対応する力はまだないので、1キロ3分4秒ぐらいのペースで淡々といこうと思った」。18日付の朝日新聞によると、大迫は試合後の会見でそのように述べている。そして、ほぼそのプラン通りにレースを進めた。
序盤から先頭集団にいた大迫は、中盤までのスプリットタイムを15分25秒(0~5キロ)、15分4秒(5~10キロ)、15分16秒(10~15キロ)、15分32秒(15~20キロ)、15分45秒(20~25キロ)、16分2秒(25~30キロ)と安定した走りで進める(各タイムは1~2秒誤差の可能性あり)。30キロを過ぎて先頭集団は7人に絞られていた。
ボストン・マラソンのコース前半は下りが続くが、30キロ過ぎからは約5キロにわたり「ハートブレイクヒル(心臓破りの坂)」と呼ばれる緩やかな上りが続く。それでも大迫は崩れるどころか、30~35キロを15分30秒とラップを上げ、最終盤の35~40キロは15分7秒とさらにペースアップした。
参考までに、17年2月の東京マラソンを2時間3分58秒で優勝した元世界記録保持者ウィルソン・キプサングの35~40キロは15分2秒。コースが異なるので単純な比較は難しいが、これに迫る終盤のスプリント力を発揮したという見方もできる。ツイッター上ではこんな反応が見られた。
「最後の35-40 kmのラップ15:07とか日本国内じゃまずないぞ、、、大迫マジやばくね?」
「大迫選手、ボストンで3位か。 35km以降のラップが15分7秒はすげぇな」
「大迫ボストンマラソン終盤キロ3分ペースすごいな」
めずらしくプロが次々と賛辞
レース結果は、1位のジェフリー・キルイ(ケニア)が2時間9分37秒、2位のリオデジャネイロ五輪銅メダリスト、ゲーレン・ラップ(米国)は2時間9分58秒で、大迫はそれに続く2時間10分28秒の3位。トップと51秒差だった。120年以上の歴史ある大会で、日本人として1987年に優勝した瀬古利彦以来30年ぶりに表彰台に立った。
元陸上400メートルハードル選手で05年世界陸上銅メダリストの為末大さんは4月18日、ツイッターで大迫について「適正もばっちり」と喜んだ。さらに、日本陸上競技連盟女子長距離マラソン強化部長の金哲彦氏(53)も同日、フェイスブックで賛辞を贈った。
「タイムは2時間10分28秒です。タイムだけで比較すると、国内レースより劣ると思うかもしれません。しかし、2時間3分、4分のベストタイムを持つアフリカ勢やリオ五輪のメダリストたちとほぼ互角に闘い振り切った走力。ペースメーカーもなく、20度近くになった気温、アップダウンの多いボストンのタフなコースなど、数々の不利な条件を考えると、殻を破れなかった最近の日本選手とは、まったく違う素晴らしいレース内容でした」
大迫は早稲田大学時代、4年連続で箱根駅伝を走った。卒業して14年4月に日清食品グループに入社したが、15年3月に退職して渡米、ナイキがつくった陸上選手強化のチーム、ナイキ・オレゴン・プロジェクトに加入。前出ボストン・マラソン2位のラップら多くのトップ選手も所属しており、スピード重視の練習をしてきたという。
日本男子マラソン界は低迷期が続き、箱根駅伝の盛り上がりとは裏腹に「箱根出身のランナーはマラソンで活躍できない」との見方もあったが、今後に大きな期待を持たせる結果となった。