大学が学生に発行するID・パスワードを入力すると時間割を自動生成してくれるスマートフォンアプリ「Orario」に、大学当局は警戒感を強めている。
首都圏・関西圏の一部私大はこのほど、使用を控えるよう学生に求めた。一方、ネットでは、こうした大学の対応に「同様のアプリを大学公式で用意するべき」との批判意見も少なからず上がっている。
上智、青学、同志社、近大が注意喚起
Orarioは、ベンチャー企業「Orario」(大阪市)が開発・提供するアプリだ。「ハイクラス大学生のための履修管理アプリ」(公式サイト)をうたい、2015年のリリース以降、ユーザー数を着実に増やしている。同社の芳本大樹・代表取締役によると、17年4月に入って5万回ダウンロードされているという。
国立大(東京大、京都大、大阪大、神戸大、横浜国立大、九州大の6校)と私立大(早稲田大、慶応義塾大、明治大、青山学院大、立教大、中央大、上智大、関西学院大、関西大、同志社大、立命館大、近畿大の12校)を合わせ、計18校に対応している。
主なサービスは、時間割の自動生成、シラバスとの連携、休講・補講・教室変更など講義情報のリアルタイム通知の計3種類。ユーザーが大学発行のID・パスワードを入力すると、学内の教務システムに自動ログインし、そこから情報を集めてくる。
「Web オートメーション(Web スクレイピング)」と同社が呼ぶこの技術について、芳本氏は
「大学在学中に作りました。教務システムでの情報検索を不便に感じ、これを少しでも改善したいという思いでした」
と語る。
そんなOrarioをめぐり、一部の大学が3月末から4月にかけ、使用を控えるよう学生に呼びかけた。
上智大は3月29日、公式ツイッターアカウントで、
「Loyola(編注:教務システム)のID・パスワードを入力することで、時間割の作成等のサービスを受けられることをうたったアプリが出回っていますが、これらは本学公式のものではありません。利用によって個人情報が流出する可能性もありますので十分にご注意下さい」
と発信。
青山学院大は4月3日、公式サイトで
「既にそのようなサービスを利用している場合には直ちに使用を停止しアプリを削除し本学で発行したIDのパスワードの変更を行ってください」
と呼びかけ、
「個人情報、成績情報の漏えい、履修情報の変更・削除、など個人の損害を蒙るばかりではなく、迷惑メールの送信などに悪用され、他者に損害を与える可能性があり、場合によっては損害賠償請求の対象となり得ます」
と警告した。同志社大や近畿大も4月初旬、同様の声明を公式サイトで発表している。
「アプリリリースの許可を大学当局に取っていなかった」
一方のOrarioは4月17日、芳本氏の名義で、こうした声明に対する見解を発表。「学生アカウントの一切の不保持を徹底したアプリ設計を行っている」としたうえで、アカウント情報は同社のサーバーを経由せず、ユーザーのスマートフォンと大学のサーバー間でしかやり取りされないと反論した。
芳本氏は4月18日の取材に対し、「確かに、アプリをリリースする許可を大学当局に取っていなかったことは間違いありません。今後、アプリに対応している大学へは、挨拶に行こうと思っています。ただ、(Orarioの)仕組みは、家計簿アプリと同様、あくまで利用者と大学サーバー間での情報のやり取りを仲介しているに過ぎません」と安全性を強調した。
大学の対応には、ツイッターで
「大学が公式に同様のサービスを提供すればいい」
「便利なアプリに違いはない」
「時間割アプリくらい大学公式で用意しろよ」
といった意見も少なからず見られる。
こうした意見を知っているのか、芳本氏は
「今後も対応する大学を増やしたり、追加のサービスを打ち出したりするつもりです」
と攻めの姿勢を崩さなかった。