「ほぼ東京」「治安だって、言うほど悪くない」「いやよ埼玉なんて」。PR動画であるにも関わらず、自虐ネタを繰り広げる川口市のCMが一部で話題を呼んでいる。
中央への人口一極集中が進む中、様々な地方が人口流出を防ぎ、移住者を獲得しようと試行錯誤しているが、東京都の隣である埼玉県も例外ではない。
「お願い住んで川口」
話題になっているのは、川口市が2017年3月20日からJR東日本の一部車内モニターとYouTube上で公開し始めたCMで、4人家族が移住先を探して不動産を訪れるシーンから始まる(JR東日本での放映は3月26日で終了し、4月3日からは埼玉高速鉄道の車内モニターで放映)。
夫婦が、部屋の条件として、
「代官山か白金台あたりで、部屋は4人家族だからそれぞれ個室とリビングとダイニング。あと最近ジョギングにハマっているんで、トレーニングルームもあって、ローン10年以内、月々2万3千円くらい」
「パウダールームもあるといいけど......」
を挙げると、店員は「あるわけないだろう!」と激怒。そこに川口市のゆるキャラ「きゅぽらん」が登場し、川口市を提案し始める。
きゅぽらんは、「ほぼ東京きゅぽ!」、「治安だって言うほど悪くない」、「割と都会」、と、どこか自虐的な調子で川口市の魅力を語り、最初は「いやよ埼玉なんて!」と拒否していた家族もいつしか乗り気になっていく。
しかし、後半に表示される注意書きには、
「※冒頭にお父さんが言っていた、代官山か白金あたりで、5LDKでパウダールームがある分譲月々2万3000円10年ローンのマンションは川口市にもないと思います。ここでは、お父さんがボケて相場に合わない金額を言っているというネタなので、きゅぽらんも、その条件にあう物件を紹介するために川口をすすめているわけではありませんきゅぽ。でもお願い住んで川口」
との記述があり、そのような条件のマンションは川口市にもないことを明らかにされる。切なさを感じさせる「お願い住んで川口」という一文に加え、自虐的でありつつも、東京都と接しているという点を最大限に利用することで、川口市のアピールポイントを表現している。
普通のPR動画では埋もれる
地方公共団体によるCMというと、多くの場合は地元の特産、名所、アピールポイントを大々的に取り上げるが、それらとは一線を画した内容だ。
この一風変わったCMは4月17日現在、YouTubeで3400回ほど再生されており、ツイッターでは、
「プライド0で可愛い」
「南北線で流れてた川口市のCM思わず笑ってしまった」
「川口市のCMで、白金の4LDKに月のローン3万くらいで住もうって奴も、そいつに川口をすすめる奴もどっちも頭おかしさあって良い」
と、ユニークさに注目する投稿が相次いだ。
川口市広報は、J-CASTニュースの取材に対し、
「川口市の魅力を伝えたいが、他の自治体と同じような内容にすると、埋もれてしまうのではないかと考え、自虐的な内容を織り交ぜることで差別化をはかった。少しずつでも、川口市の知名度を上げていきたい」
と、制作意図を語った。様々な地方によるアピール合戦が行われる中、地元の良さを少しひねった形で表現することで、情報の差別化を行ったという。
CMのメインターゲットは35歳前後の子育て世代で、定住促進を目的としたものだ。動画内では、都会でありながらも自然が多く、保育園の数が増えていることをアピールしている。
また、動画を紹介している公式サイトでは、より若い層向けのパンフレット「イイ。川口」も公開されている。
こちらでは、市内での暮らしをイメージできるよう、文字による説明を減らしながら、画像を多く使用した写真集のような体裁になっている。
CMと同じ35歳前後の子育て世代向けのパンフレット「もっとイイ。川口」も製作中で、近く公開を予定しているという。