吉野家の「牛丼ジレンマ」 「一筋」感と「苦戦」の関係

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   吉野家などを運営する吉野家ホールディングス(HD)は2017年3月31日、17年2月期の業績予想を下方修正し、翌営業日の株価は年初来安値をつけた。既存店売上高は3月こそプラスに浮上したが、2月までマイナス基調。ライバルの「松屋」「すき家」と違って「牛丼一筋」感の強さが「単調なメニュー」との印象をもたらして裏目に出ている、との見方も浮上している。

   吉野家HDの下方修正の内容は、2017年2月期の連結純利益は前期比49.1%増の12億4800万円と前期よりは大幅に増えるが、従来予想(19億円)より6億5200万円減少する。売上高は前期比1.6%増の1886億2300万円と増収ではあるが、やはり従来予想(1930億円)より43億7700万円少ない。つまり、増収増益予想は維持しているのだが、投資家に足元の「苦戦」を反映した業績予想を公表せざるを得ない状況に陥っているのだ。

  • 「牛丼一本足」がかえって足を引っ張る?(画像はイメージです)
    「牛丼一本足」がかえって足を引っ張る?(画像はイメージです)
  • 「牛丼一本足」がかえって足を引っ張る?(画像はイメージです)

国内事業の売上高が計画未達

   下方修正の理由として吉野家HDは、「第4四半期(2016年12月―17年2月)において既存店客数が伸び悩み、『吉野家』を中心とした国内事業の売上高が計画未達となった」と説明。「売上高未達の結果として営業利益や経常利益も計画を下回る」としている。「第4四半期で海外において為替の影響(円安)による円ベースの売上高が減少」という要因もあるが、大黒柱である国内の吉野家の不調が影響したのは間違いない。

   吉野家の第4四半期の既存店売上高は3か月連続で前年割れとなった。2月は前年がうるう年で1日多い特殊な月だが、吉野家は前年同月比4.6%減で、最大マイナス3%程度とされる「うるう年要因」を除いてもはっきりと減収だ。松屋の2月の既存店売上高は0.6%減と27か月ぶりのマイナスだったが、うるう年要因を除けば堂々たる増収だ。すき家にいたってはもともと1.3%増で勢いを感じさせる。

   外食業界全体に目を転じても足元は好調だ。日本フードサービス協会によると、2月の外食全体の売上高は1.8%増と6か月連続で前年を上回った。2月はうるう年要因も差し引くまでもなくプラスなのである。ファミリーレストラン業態は1.4%減だったが、ファストフード業態が4.6%増と大幅に伸びたことが要因だ。特にマクドナルドの健闘がきいたようだ。実際、日本マクドナルドHDが発表した1~3月の既存店売上高は前年同期比15.5%増で、2014年に使用期限切れ鶏肉問題が発覚する前の水準に回復した可能性がある。そうした中で吉野家の不調が目立つ形だ。

牛丼以外のメニューの存在感

   吉野家HDにとっては「トランプ相場」で、外国為替市場の円相場が円安傾向にあることも業績悪化要因となる。実は吉野家HDは第1~第3四半期(2016年3~11月)は円高傾向を受けて米国産牛肉の円建て仕入れ価格が下落したため、営業利益は前年同期比41.4%増の12億100万円と伸びた。しかし、米大統領選でトランプ氏が勝利後は円安に反転したことが、利益を押し下げる方向に働いている。

   もっと構造的な要因が「牛丼一本足打法」の問題だ。牛丼チェーンなんだから当たり前と思う人もいるかもしれないが、例えば、カレーなど牛丼以外の定食メニューが豊富な松屋は売上高に占める牛丼の割合は2~3割とされる。「すき家」もカレーや海鮮丼を注文する客が比較的多い。これに対し吉野家は牛丼が5割を占めるとされている。吉野家も「豚丼」や「牛すき鍋膳」などが定着し、カレーも導入してはいるが、牛丼を超える存在感はない。「牛丼一本足」が問題なのは「低価格」のイメージが消費者の頭にこびりついている点だ。多様な定食なら、牛丼の価格体系から消費者のイメージがいったん離れるので600円程度でも大きな抵抗はないかもしれない。しかし、牛丼は「並盛280円」時代の印象が消えていない可能性がある。さらに、吉野家は定期的に客寄せのための値下げキャンペーンを打つ。一時的に客足は回復するのだが、これが「安価」のイメージを消費者に刷り込む悪循環となっているようだ。

   吉野家といえば牛丼、それが客を呼び寄せるキラーコンテンツではある。しかし、一時は「デフレの勝ち組」として低価格の代名詞になったことが、業績にとって足かせとなっている可能性がある。

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