とある喫茶店の人気和菓子が、山梨県の老舗和菓子屋「金精軒製菓」が提供する「水信玄餅」に「激似」だとしてツイッターを騒がせている。
中には「パクり?」などと指摘する声もあがっている。実際、水信玄餅を意識しているのか、店舗を直撃した。
テレビで紹介され、数多くの指摘があがる
話題の和菓子は、東京・表参道に店舗を構える「味甘CLUB」が提供する「天使の涙」。手のひらサイズでドーム形状の透明な和菓子で、スプーンですくって食べる。これが2017年4月11日放送の「めざましテレビ」(フジテレビ系)で紹介されると、直後からツイッター上では「水信玄餅」を想起する、という声が続出した。
「天使の涙って水信玄餅と一緒じゃん」
「『天使の涙』ってスィーツ...水信玄餅に激似!!」
「表参道の『天使の涙』って、そのまんま山梨県の水信玄餅やってんけど、あれって大丈夫なん?訴えられていいやつじゃないん?」
その水信玄餅は寒天を使った水菓子で、「信玄餅」で知られる金精軒の夏季限定商品。同社公式サイトに掲載された写真を見ると、確かに外見上「天使の涙」に似ている。きな粉と黒蜜が添えられているのも同じだ。
金精軒と味甘CLUBの回答は...
J-CASTニュースが4月11日、金精軒に電話取材したところ、韮崎店(山梨県韮崎市)店長の小野充大さんは「『天使の涙』が水信玄餅に似ているという話は、お客様から当社に届いたメールで知っていました」と明かした。「許せないですよね?!」といった怒りのメールが多かったというが、小野さんは「事を荒立てる気はまったくありません。特に問題視もしていません」と穏やかだ。
「類似の食品が登場するのはよくあることです。水信玄餅は寒天と水、砂糖でできており、料理に明るい人ならレシピも想像できると思います。うちが水信玄餅を製造できなくなったり、うちの隣の店で販売されたりする事態になれば話は変わりますが、同様の水のゼリーが作られることに関しては何も言うことはありません」
水信玄餅は2012年から夏季限定商品として毎年販売している。「30分もすれば水が染み出して形が崩れます」という程もろく管理が難しいため、1日10~20食しか提供しない。また、真似したような商品を他社が出している、といった報告メールは、3年ほど前から時折、届いているという。
一方、「天使の涙」を提供する「味甘CLUB」は、水信玄餅を意識したのか。今回、J-CASTニュースは4月12日に店舗へ行き、店主の岸田安奈さんに話を聞いた。岸田さんは「お客様に言われて初めて水信玄餅を知りました。『水信玄餅ください』と注文される方もよくいらっしゃいます」という。ただ、「似ているとよく言われますが、真似をしたつもりはありませんし、それでももしかして金精軒さまに迷惑がかかっていないかと心配していました」とも話した。
店を開いたのは2016年4月ごろで、ほぼ1人で切り盛りしている。「天使の涙」は「この店を開くために作ったメニュー」だが、人手もなく、作るのが追い付かないため1日80セット限定。スプーンで押すとプルプルと揺れ、食感も弾力がある。海藻の粉だが、寒天ではないという。30分ほど経っても水が染み出すことはなかった。
「製造特許」が取られたらどうなるか
なお、ネット上では「訴えられていい」などの声があったが、法的に問題化する可能性はあるのか。今回のケースを弁護士法人・響の徳原聖雨弁護士に伝え、見解を取材したところ、まず「金精軒自身が、水信玄餅を製造する権利が奪われないかぎり、問題視しないと述べられていることから、現時点、法律的な問題が生じることは考えにくいでしょう」とした。ただ、「製造特許」の観点について、仮定の話として、こう説明した。
「金精軒と味甘CLUBそれぞれが商品を製造する過程で、独自に考案した方法があり、それが結果的に同一であったとして、味甘CLUBがその製造特許をとった、という仮定で考えてみましょう。そうなると、金精軒は味甘CLUBに無断で商品を製造する事ができなくなってしまいますので、金精軒は味甘CLUBの製造特許の無効を主張するなど法的な問題が起こりえます」
また、一般的に「料理レシピ、すなわち料理のアイデアには、著作権法上の保護がないというのが現状です」として、
「著作権法上の著作物とは、思想や感情を創作的に表現したものです。料理レシピはあくまでもアイデアにすぎず、頭の中にあるだけです。表現したものではないので著作権法上の保護ができません。じゃあ、そのアイデアを本にするなどすれば、保護されるようになるのか。レシピ本となれば、その本自体に保護は生じることになりますが、レシピそのものの保護は特にありません。肉や野菜の量、調味料の量など調理の手順や方法自体は誰でも思いつくものですので、創作的とはいえないのです。以上のことから、料理レシピ自体を保護することは、現状難しいといえるでしょう」
と説明した。