日本では空前のパクチーブームが巻き起こり、パクチーサラダやパクチー鍋と言った料理を提供する店も目立つ。そんな中、あるタイ料理店が「パクチー料理ありません」との貼り紙を出入口ドアの外側に掲出し、話題をさらっている。
貼り紙には「パクチーだけのサラダ料理」や、「パクチーを大量に使用するような流行りもの系の料理」は提供していないと書かれている。店員はJ-CASTニュースの取材に対し「猫も杓子もパクチーパクチー...」と昨今のブームへの困惑を示す。
「流行りもの系の料理は提供しておりません」
貼り紙が知られたきっかけは、この店の常連というツイッターユーザーの2017年4月8日の投稿。写真に撮ってアップロードし、「パクチーブームで無茶をいうお客増えたんだろなあ」との感想を書き込んでいた。貼り紙には「パクチー料理ありません」との見出しに続き、次のように注意書きがなされている。
「当店ではパクチー(香草)だけのサラダ料理や、パクチーを大量に使用するような流行りもの系の料理は提供しておりません。パクチーの追加増量に関しましても大量に増量を希望されるお客様が増えますと通常の料理に使用する量を確保できなくなるため今後はパクチーの追加増量には対応しないことと致しました」
さらに、そもそもタイ料理とパクチーとの関係についての説明も貼り紙に書かれている。
「タイ・ラオス料理にはパクチーを使用していない料理も多数あり、あくまでもパクチーは薬味としての扱いが基本です。本来のタイ・ラオス料理ではパクチー(香草)そのものをサラダのようにして食べるという習慣はありませんので当店では過度なパクチーのみを強調して使用するような料理は提供いたしません」
その上で、「もしそのような料理をご希望される場合は他の店舗様をご利用ください。お客様のご理解ご協力お願い致します」との姿勢を示している。
「『創作料理』であって『タイ料理』ではない」
パクチー料理を食べにくる客を門前払いするメッセージをあえて店頭で発している背景には何があるのか。貼り紙を出したタイ・ラオス料理店「キンカーオ」(京都市)に4月12日、J-CASTニュースが電話取材したところ、店主がその真意を明かした。
「日本では近ごろ『パクチー料理』が出てきていますが、それは『創作料理』であって『タイ料理』ではありません。当店はタイ料理の店なので、そもそも扱っていないパクチー料理を求められても困るのです」
ここ半年ほどでパクチー料理やパクチー増量を求める客が増え、その度に提供していない旨を説明してきた。しかし「もう答えるのに嫌気が差しました」として、4月初旬に今回の貼り紙を出入口ドアに掲出した。それでも「今日もパクチーの増量を求められて説明しましたよ」と疲れた声で話す。
店主は、タイ料理店でパクチー料理がよく求められる理由について、「『パクチー』がタイ語だから、タイ料理には何でもかんでも使われていると勘違いされているのかもしれません」と推測する。一方で「『パクチー料理』自体を否定する気はありませんよ」とのスタンスだ。料理はさまざまな組み合わせや創作の繰り返しで発展してきた歴史があるとして、「パクチー料理はあって良いと思います。ですが、タイ料理ではありません。この認識を間違えないでいただきたいです」と話している。
同店の別の店員にも話を聞いたが、「訳も分からず、猫も杓子もパクチーパクチーと注文されたので困り果てました」との心境だった。タイ料理におけるパクチーは、和食において何に当たると思うかを聞いてみると、「まあ、あえて例えれば『サンショウの葉』でしょうか。好き嫌いが分かれやすい独特な風味もありますし」と答えた。
貼り紙を出したことで苦情は来ていないそうで、「むしろ称賛をいただいてます。タイ料理をご存知の方にとっては、同じ思いだったのではないでしょうか」と話していた。