森永製菓と森永乳業の経営統合が幻となった。2017年3月30日、「現時点での検討を終了し、それぞれの事業戦略への注力で経営基盤の強化を図る」と、統合見送りを発表した。経営の独立性を保った上での協業については、引き続き検討するというが、国内市場の成長が見込めない中、大型再編が進む世界の食品業界の中で取り残されることを懸念する声が出ている。
両社の統合情報は2月24日に表ざたになった。日経新聞が朝刊1面トップで「森永製菓・乳業統合へ 来年4月メド、持ち株会社」と打ち、「売上高は8千億円に迫り、明治ホールディングスに続く総合製菓・乳業メーカーが誕生する」として、持ち株会社方式で統合する見通しであること、持ち株会社の会長に乳業の宮原道夫社長、社長に製菓の新井徹社長が就く方向で調整という新体制の人事構想まで書き込んだ。報道に対して両社は「様々な可能性について検討していることは事実」とのコメントを発表し、統合協議を認めた。
相互補完関係も評価が高かったが...
両社の統合話は、2009年に明治製菓と明治乳業が経営統合した明治ホールディングスへの対抗勢力の登場として市場に好感され、17年2月24日の東京株式市場では、森永製菓と森永乳業株がそろって急騰。製菓は一時前日比9%高、乳業は18%高まで上昇する場面があり、終値は製菓が3%高の4880円、乳業が13%高の864円となり、乳業は東証1部の株価上昇率で2位、売買代金10位とにぎわった。その後も株価は騰勢を強め、3月30日に製菓が5440円、乳業も995円と、それぞれ年初来高値をつけた。
期待の大きさの反動で、統合見送り発表翌日の31日、一転して両社への売りが膨らみ、製菓は一時4880円まで下げ、4月に入って5000円台を回復はしているが、完全に失速。乳業は31日取引開始から1時間以上たった朝10時すぎに制限値幅の下限(ストップ安)の15%安826円でやっと取引が成立し、その後も820~840円台で低迷する。乳業の方の下げがきついのは、統合の場合の効果が大きくなるとみられていた分、反動も大きかったということだろう。
両社の統合では、規模拡大による調達コストの削減や間接部門等の合理化効果のほか、「シールド乳酸菌や母乳に多く含まれるたんぱく質ラクトフェリンといった機能性素材など乳業が開発しながら、もうひとつ売り上げに貢献しきれていなかった製品力と、製菓の営業力が結びつけば、相乗効果が見込める」(アナリスト)といった期待があった。重複分野も、目立つのはアイスくらいで、相互補完関係も評価が高かった。
しかし、実際に協議が始まり、生産や物流部門の合理化などがテーマになると主張の対立が露わになったという。統合のためには、ある程度のエネルギーを内向きに使うのが不可避だが、そういう気運が盛り上がらなかったということだろう。
再編の大きな流れ
その理由は足元の業績が好調なこと。2017年3月期は、両社とも純利益が過去最高を更新する見込みで、健康ブームを背景に、「それぞれ自分の事業に力を入れれば、業績の伸びしろは、まだある」(業界関係者)というムードが統合にブレーキをかけ、求心力は高まらなかったようだ。
ただ、売上高の規模は明治の1兆2237億円に対し、森永乳業で6014億円と半分で、製菓の1818億円を加えても8000億円に届かず、明治の3分の2にも満たない(いずれも2016年3月期)。さらに、世界に視野を広げると、食品再編は大きな流れ。2015年に米食品大手のクラフト・フーズ・グループとケチャップで知られるHJハインツが合併してクラフト・ハインツが誕生するといった動きが続いている。
当面、協業の可能性は追求するといい、将来的に統合の動きが復活することも考えられるというが、その時、現在より経営環境は悪化しているかもしれない。「人口減で国内市場は限界があるだけに、再編が進む世界で遅れをとらないためにも、業績好調で余裕があるうちに統合するのが好ましいのだが...」(全国紙経済部デスク)と残念がる声は少なくない。