2016年に米国で郵便配達中に犬に襲われた局員は6755人に達する――米郵政公社(USPS)が2017年4月6日(現地時間)、年次報告書で発表した。
コミカルな場面が思い浮かばなくもないが、襲われた側からすると笑いごとではない。怪我を負うだけでなく、感染症を発症するリスクもある。最近では妊婦が鳥由来感染症である「オウム病」で亡くなっていたことが話題となったが、犬ではどうだろうか。
日本でも4000人以上が咬まれている
CNNはUSPSの発表をとりあげつつ、全米での犬による咬みつき事故が約450万件発生しており、5人に1人が犬の持っている感染症に感染していると報道した。
日本国内で犬に襲われる件数は報告されているのか。咬みつき事故に限定されるが、環境省が毎年公表している「犬による咬傷事故状況」によると、2015年の咬みつき事故は4373件(人以外も含む)で、配達中の被害は724件とされている。
各自治体に報告された件数を集計したものだ。ちなみに咬まれているのは飼い主や家族が207人に対し、他人が4087人で、通行中にいきなり咬まれたという例が多いようだ。この中で何らかの動物由来感染症を発生した人がいるか環境省や自治体などに確認したが、残念ながらそこまでの調査は行われていないとのことだった。
動物から人間へうつる感染症「動物由来感染症(ズーノーシス)」は数多く存在しており、厚生労働省がウェブサイト上で公開している「動物由来感染症を知っていますか?」の中で、世界で近年発見されている新しい感染症は動物由来のものが多いと警鐘を鳴らしている。
ペットの犬から感染するリスクがあるものだけでも「パスツレラ症」「皮膚糸状菌症」「エキノコックス」「狂犬病」「ブルセラ症」「Q熱」「レプトスピラ症」などかなりの数が挙げられている。
例えばパスツレラ症は犬の口内常在菌が原因で発症する病気で、咬みつき以外に餌を口移しするなど口を接触させることで感染する、典型的な動物由来感染症だ。健康な人の発症リスクは高くないが、糖尿病患者やHIV感染者、がん患者など免疫機能が低下している人は危険だという。皮膚糸状菌症やレプトスピラ症に至っては、接触しただけで感染する可能性もある。狂犬病も日本国内での感染は長く確認されていないが、ワクチン接種率が低下しており、発生の危険性があると厚労省、環境省が訴えている。
ペットとキスはしない
環境省の「人と動物の共通感染症に関するガイドライン」によると、動物由来感染症を予防する基本は「動物が保有している病原体を、人に感染する前に排除し、動物を健康な状態に戻すこと」としている。ペットであれば予防接種はもちろん、飼い主が体調管理などに気を配る必要があるだろう。
その上で「ペットとキスをしない」「口移しでエサを与えない」「箸や食器を共有しない」「一緒に寝ない」「ペットの爪を切っておく」「触れ合ったあとはすぐに手を洗う」など、「ペットとの節度ある関係を保つ」よう呼びかけている。
では、犬に咬まれない方法はあるのだろうか。USPSは年次報告の中で「犬にも機嫌の悪い日があるだろう」とし、咬まないようにする訓練はもちろん、局員が配達に訪れた際は犬を別の部屋に入れる、ペットの前で飼い主や家族に手紙を渡さないといった対策法を提案。また、犬が咬むのは恐怖を感じた場合や追い詰められた場合に多いとし、犬をこうした状況に追い込まないよう忠告している。