東京駅、渋谷駅、新宿駅、大阪の梅田駅、そして名古屋の「迷駅」...ではなく「名駅」――。これらは全国でも有名な「ダンジョン駅」だ。
ダンジョンとはRPGゲームに出てくる「迷宮」のこと。巨大で複雑化した駅を、いつの頃からか、人は愛を込めて「ダンジョン駅」と呼ぶようになった。特にネットの世界では「ダンジョン駅」は恰好のネタで、2017年春も注目を集めている。
「新宿駅は21世紀に残されたダンジョン」
ツイッターなどには例えば、
「おねぇちゃんは東京駅から外に出れんかったらしい...」
「新宿駅は21世紀に残されたダンジョン」
「池袋駅 改札を出たその時、貴様の方向感覚は失われる」
「秋葉原は総武線から山手線に乗り換えるところで異次元の回廊がある」
「新宿は本当に迷う。駅から出てからが本番 気付いたらデパート デパートから出たと思ったらそこもデパート」
といったコメントがあふれている。
この「ダンジョン駅問題」、見て笑っているぶんにはいいが、実際迷ってしまう人にとっては笑い事ではない。
毎日新聞でも、2017年4月5日、JR東海の柘植康英社長が定例会見で、マスコミが名駅を「迷駅」と表現していることに触れ「分かりにくいのは事実だが、イメージを全国に刷り込まれる」と苦言を呈した、と報じている。
本来、分かりやすくあるはずの駅で、なぜこうも「迷宮」が多いのか。
『新宿駅はなぜ1日364万人をさばけるのか』(SB新書)、『迷いに迷って渋谷駅 日本一の「迷宮ターミナル」の謎を解く』(光文社)の著者である、昭和女子大学の田村圭介准教授に話を聞いた。
迷わせる犯人、それは連絡通路だった
本来、駅の構造は単純だ。うなぎの寝床のように電車が停まるプラットホームが平行して並び、そこを横串を指すように連絡通路がつなぐ、これだけ。新宿駅のJR線プラットホーム群がよい例だ。
だが、路線が増えると連絡通路が、「迷わせる」犯人に変わる。
「プラットホームが増えるということは、それだけ往来する人が増えるということです。多くの人の往来をさばくには、連絡通路の数を増やすか、幅を広げるしかありません。連絡通路は地上につくるものと地下につくるタイプがありますが、人は新しくできた連絡通路に戸惑います。『あれ? ここ上にあがるんだっけ?』と。そして東京駅のように幅の広い通路の場合、途中に店があることが多いので、目が奪われたり、つい立ち寄ってしまったりすると、気づけば自分がどちらから来たか分からなくなる――、ということになるのです」
駅は一度にできるわけでなく、ニーズに合わせて徐々に「増築」を繰り返している。今は1日364万人が利用する新宿駅ですら、開業当時の1885年には利用者はほとんどいなかった。
すべてのプラットホームをうなぎの寝床のように平行に作れればいいが、JR、私鉄、地下鉄......と、各社路線が増えていくとそうもいかない。
その時最善の設計をしつつも、どうしても「つぎはぎ」で増えていくため、連絡通路が複雑化してしまうというわけだ。
では、比較的新しい「渋谷駅」はどうなのか? 東急東横線の駅が地下に移転(2013年)してから、ますますダンジョン感が増した。
「渋谷駅は、これまで話した複雑化とは少し違います。それは渋谷駅が『谷』になっているからです。もともと面積がない中に作っているので、うなぎの寝床ができません。縦に作るしかないのです。渋谷駅は、地下5階、地上4階相当の9階層の中に交差するようにプラットホームが積まれています。この中を私たちは、上下左右あらゆる方向に移動せねばならず、そこで混乱を招いてしまうのです」
平行して走っている平行型であれば視覚的にも分かりやすいが、交差型はイメージがつかみにくい。渋谷駅は、いわば立体迷路ようなものなのだ。
案内板を信じて進むしかない
では、私たちが駅で迷わないようにするコツはあるのか。
「1つめは、プラットホームがどう並んでいるかの空間を把握することです。でも、これができる人はなかなかいません。空間把握ができないなら、案内板を頼りに向かってください。必ず目的地にたどり着けます」
昭和女子大学田村研究室制作の新宿駅の「全ぼう」が分かる巨大模型が、2017年5月7日まで、新宿歴史博物館地下1階企画展示室で展示されている。
新宿駅のプラットホームと連絡通路だけを模型にして視覚化した新宿駅の全体模型で、普段は見ることができない地下のダンジョン空間だ。新宿駅で迷うという人は、一度見ておいた方がいいかもしれない。