迷わせる犯人、それは連絡通路だった
本来、駅の構造は単純だ。うなぎの寝床のように電車が停まるプラットホームが平行して並び、そこを横串を指すように連絡通路がつなぐ、これだけ。新宿駅のJR線プラットホーム群がよい例だ。
だが、路線が増えると連絡通路が、「迷わせる」犯人に変わる。
「プラットホームが増えるということは、それだけ往来する人が増えるということです。多くの人の往来をさばくには、連絡通路の数を増やすか、幅を広げるしかありません。連絡通路は地上につくるものと地下につくるタイプがありますが、人は新しくできた連絡通路に戸惑います。『あれ? ここ上にあがるんだっけ?』と。そして東京駅のように幅の広い通路の場合、途中に店があることが多いので、目が奪われたり、つい立ち寄ってしまったりすると、気づけば自分がどちらから来たか分からなくなる――、ということになるのです」
駅は一度にできるわけでなく、ニーズに合わせて徐々に「増築」を繰り返している。今は1日364万人が利用する新宿駅ですら、開業当時の1885年には利用者はほとんどいなかった。
すべてのプラットホームをうなぎの寝床のように平行に作れればいいが、JR、私鉄、地下鉄......と、各社路線が増えていくとそうもいかない。
その時最善の設計をしつつも、どうしても「つぎはぎ」で増えていくため、連絡通路が複雑化してしまうというわけだ。
では、比較的新しい「渋谷駅」はどうなのか? 東急東横線の駅が地下に移転(2013年)してから、ますますダンジョン感が増した。
「渋谷駅は、これまで話した複雑化とは少し違います。それは渋谷駅が『谷』になっているからです。もともと面積がない中に作っているので、うなぎの寝床ができません。縦に作るしかないのです。渋谷駅は、地下5階、地上4階相当の9階層の中に交差するようにプラットホームが積まれています。この中を私たちは、上下左右あらゆる方向に移動せねばならず、そこで混乱を招いてしまうのです」
平行して走っている平行型であれば視覚的にも分かりやすいが、交差型はイメージがつかみにくい。渋谷駅は、いわば立体迷路ようなものなのだ。