子どもは病院に行くと、医師の診察や検査、手術の前に怖がることが多い。そんな子どもの不安をバーチャル・リアリティー(VR)技術でやわらげようとする取り組みが愛知県内の医療機関や大学などで始まった。痛そうな処置の時に動物の映像を見せて気を散らしたり、バイ菌が手にウヨウヨいるイラストを見せ手洗いの大切さを教えたりするこころみだ。
痛い手術もコアラの映像で気を紛らわせる
あいち小児保健医療総合センターと名古屋工業大学、金城学院大学、NTTドコモ東海支社の共同研究だ。2017年3月24日にあいち小児センターで初の実証実験に成功、子どもの医療現場に広げたいという。
4者の発表資料によると、実証実験ではあいち小児センターの外来を訪れた子どもたちに参加してもらい、次の3つのイベントを行なった。
(1)手洗いの重要性と正しい方法を学ぶ教育。
子どもが、VRスコープを目につけて自分の手を見ると、大きくデフォルメされたバイ菌のイラストが手にくっついて見える。子どもが正しい方法で手洗いの動作をすると、バイ菌が1つずつ消えていく。このVRシステムを利用すると、本来は見えないはずのバイ菌が見えて、それを消すという体験ができ、子どもは遊びながら自然に正しい手洗いの方法や重要性を学ぶことができる。
(2)手術・治療・検査時の恐怖をやわらげ、気を紛らわせる方法。
手術や処置、検査は、子どもに必要以上の不安や恐怖を抱かせ、心身に大きなストレスを与えがちだ。手術や検査がスムーズにできない場合がある。たとえば、ケガをした時に装着するギブスや包帯をとる時などに大騒ぎをする子どもが多い。その不安や恐怖を軽くするため、VRスコープでコアラの映像を見せるなど、子どもの年齢や発達、ニーズにあった映像で気を紛らわせる。子どもが映像に夢中になっている間に手術や処置をすませる。
(3)手術・治療・検査の時に心の準備をさせる事前説明。
手術・治療・検査の前に説明する時、手術室やCT室などを事前に見学ができない場合がある。そこで、360度パノラマ撮影した手術室・CT室の映像を子どもにタブレットで事前に見せる。具体的なイメージを持つことができ、不安や恐怖が軽くなり、手術や治療がスムーズにいく。また、子ども向けのアプリを併用して見せると、手術や治療までの空き時間の不安を解消しやすくなる。
実験イベントにあたり、あいち小児センターが場所を提供、手術や治療、検査を行ない、名古屋工業大学が手洗い教育のVRシステムを開発、金城学院大学がタブレットやVR活用方法をアドバイス、ドコモがアプリや子どもが気をまぎらわせるVRコンテンツ、タブレットを提供した。
指の股のバイ菌は4回こすらないと消えない
J-CASTヘルスケアの取材に応じた共同研究チームの舟橋健司・名古屋工業大学准教授(情報工学)によると、「実験には10人ほどの子どもに参加してもらいました。みんな、『僕も(私も)やりたい』と楽しみながら実験を続けていました。この様子から見ても実験は成功だったと思います」という。まだ、具体的なスケジュールは決まっていないが、今回開発したVR技術は、まず、あいち小児センターの外来から使い、周辺の医療機関に広めていく計画だ。
舟橋准教授はこう語った。
「特に手洗いVRシステムは、ゲーム感覚で正しい手洗い方法を学べるため、ほかの小児病院や幼稚園、小学校、自治体などに広めたいと考えています。リープモーションという、実際の手の動きをマウスや画面タッチを使わず、空中ジェスチャーからそのままコンピューターに取り込む技術を使い、子どもが正しい動作で手洗いをしないと、バイ菌が消えないシステムを作りました」
「大人でも石けんで1分間、指の股まで全部洗わないとバイ菌は流せません。そこまでは厳密にしませんが、ちょっとゆるくして、子どもがちゃんと両手の指を交差し、こすり合わせて指の股まで洗っているか、その際、バイ菌のいる場所を4回こすってダメージを与えないと消えないようにしました」
「バイ菌は目に見えませんから、子どもに口で『ちゃんと洗いなさい』と言っても分かりません。しかし、巨大なイラストのバイ菌が消えていくのが見えると、子どもは楽しみながら正しい手の洗い方を身に付けます。VRというと、ゲームと誤解されている感じがありますが、様々な可能性を持っていることを一般にも理解してもらうきっかけになることを期待しています」
この手洗いVRは大人にも驚きだったようで、実験イベントでは、バイ菌が消えていくと、大人まで「お~、スゴイ」という歓声を上げたという。