スマホ事件の大騒ぎでイメージダウンした将棋界にとんでもない天才棋士が出現した。
中学生の藤井総太クン、愛知県の中学三年生、四段、デビューから11連勝の新記録。「考えるスポーツ」に新時代の到来である。
かつての天才少年を下す
「自分の今の実力からすると、望外の結果です。素直にうれしく思っています」
藤井クンは新記録の後、喜びをそう言い表した。「望外」との表現は、とても中学生とは思えないもので、落ち着いた語り口に魅力を感じたファンは多かったと思う。
その対局は2017年4月4日、大阪での王将戦予選。先輩の七段を破って21年ぶりに記録を塗り替えた。
彼が注目を集めたきっかけは21世紀生まれの初のプロ棋士になったことだった。デビューは昨年12月、かつて天才少年といわれた九段の加藤一二三(77歳)。「最年長vs最年少」と話題になり、14歳が勝った。そこからの無敗街道である。
将棋は古くから新聞に掲載されている。独自のスペースを持ち、棋譜の解説記事は、戦いの妙が素晴らしく、多くの読者に支持されてきた。
「考えるスポーツ」
そうも言われている。勝負を決するところから大義の意味でスポーツともいえるからだ。
最終盤の詰めの読みは図抜けている
「藤井クンの出現は将棋界に新しい時代が来たということだ」
棋界からは大歓迎の声が相次ぐ。その理由の一つに、つい最近まで騒いでいたスマホによるカンニング事件。三浦弘行棋士が疑われ、出場停止処分を受ける騒動になったのだが、結局「えん罪」で落着。連盟の幹部が役職を辞任するなど、イメージを大きく損ねる結果となった。
将棋界というと、あの独特の雰囲気から真面目な世界と見られている。しかし、振り返ってみると、みっともない出来事はかなりある。
対局では「遅刻で不戦敗」「二歩で反則負け」など。
プライベートでは、大物棋士と女流棋士の不倫事件、大物棋士の週刊誌に掲載されたヌード写真など、人間っぽい出来事も少なくない。
そんな世界にすい星のごとく現れたのが藤井四段というわけである。
「読みに手を何手か指された。それで戸惑った...」
件の対局で敗れた小林裕士七段は振り返った。このコメントは羽生善治らが登場してきたときによく聞かれたものと似ている。
他の棋士からも驚きの声が続く。
「読みが速く、そのスピードは他の棋士にないくらい速い」「とりわけ最終盤の詰めの読みは図抜けている」
藤井クンは小さいときから将棋の勉強をしていたといい、詰め将棋の大会では現在3連覇。小中学生にブームを巻き起こすかもしれない。「考えるスポーツ」に魅力を感じる保護者は多くなるだろう。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)