いわゆる「フェイクニュース」をめぐり、ドイツがSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)運営会社に対して対策を求める立法措置に乗り出した。フェイクニュースに関する通報を受け付ける窓口を設け、迅速に削除しない場合は罰金が科せられるという内容だ。先進国によるSNSへの法規制としては最も厳しい内容だとみられる。
2016年の米大統領選ではフェイクニュースが投票行動に影響を与えたとの指摘もあり、ドイツ政府としては、2017年9月に予定されている連邦議会選挙までに議会で可決・成立させたい考え。早くも表現の自由をめぐる懸念や、「誰が書き込みが違法なのかを決めるのか」という線引きをめぐる反発が出ている。
選挙前に法案成立させ、選挙への影響抑える
ドイツでもすでにフェイクニュースは問題化している。ワシントン・ポストによると、2016年には
「ロシア系のドイツ人少女が亡命希望者に強姦された」
といったフェイクニュースが拡散し、
「ロシアの高官が拡散したことから、メルケル首相の難民に対して寛容な政策(に対する攻撃)を狙ったものだと考えられている」
という。メルケル氏としては、選挙前に法案を成立させてフェイクニュースの影響を最小限にとどめる狙いがあるとみられる。
2017年4月5日に閣議決定された法案では、SNSを運営する会社は、自らが運営するプラットフォームが憎悪犯罪(ヘイトクライム)や違法なフェイクニュースの拡散に悪用された場合、責任を負うと規定。こういった書き込みは24時間以内の削除を求められ、削除されない場合は最大5000万ユーロ(約59億円)の罰金が科せられる場合があるとしている。法案はフェイクニュースや憎悪表現(ヘイトスピーチ)以外にも、テロを煽ったり、児童ポルノを拡散したりする書き込みも規制の対象にしている。
マース法相の声明によると、法案は現時点ではドイツ国内のみを対象にしているが、今後は欧州連合(EU)各国にも同様の対策を働きかけたい考えだ。
シンガポールでもフェイクニュース対策「真剣に検討」
だが、この法案には、早くも反発の声が出ている。ドイツの雑誌業界の団体からは「私的な意見を取り締まる行為だ」だと主張。環境政党「緑の党」の議員は、テレビ番組で
「削除するばかりで、表現の自由を大幅に制限することになる」
と訴えた。SNSの運営会社は自主的な対応を強化することで規制の対象になることを避けたい考えだ。ブルームバーグやロイターによると、Facebookは「ドイツでは、どのコンテンツが違法なのかを裁判所ではなく私企業に決めさせることになってしまう」と反発。ドイツでは2900万人のFacebook利用者がいるとされる。
だが、ドイツ政府は業界の自主的な取り組みでは不十分だとの立場。マース法相は、Facebookは犯罪に関する書き込みを指摘されても39%しか迅速に削除せず、ツイッターに至っては1%だったと主張。法規制の必要性を強調している。
フェイクニュースを法的に抑えようとする動きはドイツ以外でも起きている。シンガポールの英字紙、ストレーツ・タイムスによると、シャンムガム法相4月3日、現行の電気通信法だけでは不十分だとして、フェイクニュースへの対策を「真剣に検討」していると述べた。現時点で詳細は不明だが、フェイクニュース対策に特化して立法措置が行われる可能性もある。