ネットメディアに明日はあるか(後編)
法政大・藤代裕之准教授に聞く 
ニュースサイトの自滅、新聞の不戦敗

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「尊敬されよう」志向の危うさ

――本書の終盤では、人材育成の必要性に言及されています。既存メディアからの「転職組」が多かったこれまでとは違い、ネットメディアで「新卒」としてキャリアを始める人も増えている中、この問題はさらに重要になりそうですが。

藤代 ブランド化が進むのであれば、人材育成が「必然」になるでしょう。
プラットフォーム最適化の道は、書き手はクラウドライター、あるいは人工知能(AI)でいいということになります。しかし、「良い記事」を提供するためには、ジャーナリストやライターの取材力や筆力が問題になる。ただそういう話になると、今までのネット企業のライターだと経験不足です。
最近、「(ネットメディアが書く記事の)賭け金が上がっている」と感じます。ネットメディアが社会的なニュースを書く機会が増えているからです。今までは「ネットで話題」とかのオモシロ記事を書いていればよかったわけですが、最近のBuzzfeedやハフィントンポスト、Yahoo!のオリジナル記事を見ても、災害や戦争といった人の生死にかかわる問題や教育や介護といったセンシティブなテーマに踏み込んでいるじゃないですか。そういうテーマは既存メディアの強いエリアなんですね。
今、ネットメディアの一部は「尊敬されよう」と思っていると感じるんですよ。社会の中で認められたい、社会の中で尊敬されるネットメディアになりたいと。ところがそのスタッフがセンシティブなテーマを書けるジャーナリストとして十分なレベルに達していない。「マイナークラスの選手なのに、メジャーリーグに挑もうとしている」ような危うさがあると思うんですね。

――「正義の味方」になろうとしている。

藤代 「正義の味方」化はとても危険です。そもそも、ネットメディアはそういう正義の味方的な上から目線が問題だと新聞社などに対して、マスゴミ批判をしてきたのではないかとも思いますが......より大きな問題は、繰り返しになりますが、センシティブなテーマを扱う場合は、ジャーナリストとしての訓練が必要だということです。書くことで誰かを傷つけることもありますし、企業が潰れてしまうかもしれません。それは、起きてからでは遅いんです。このまま賭け金が上がり続けると大きな社会問題を引き起こしかねない、それに無自覚に見えるいまのネットメディアは怖いなと思います。

藤代裕之氏 プロフィール

ふじしろ・ひろゆき 1973年徳島県生まれ。広島大学文学部哲学科卒業、立教大学21世紀社会デザイン研究科前期修了。徳島新聞記者を経て、NTTレゾナントでニュースデスクや新サービス立ち上げを担当。現在、法政大学社会学部メディア社会学科准教授。専門は、ジャーナリズム論、ソーシャルメディア論。近著に『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』(光文社新書)。

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