虚構情報を幅広く発信する「虚構新聞」が2017年4月6日、「記事が一部現実化してしまった」とお詫び文を掲載した。
現実と虚構の区別を総合的に検討した結果、「概ね誤報と判断せざるを得ない」との結論に達したという。
虚構の政策が次々と実現
虚構新聞は2015年2月17日、「日本の『謙虚』、海外アピールに200億計上」という「虚構」記事を掲載した。政府が日本独特の「奥ゆかしさ」「謙虚さ」といった文化的価値観を世界に発信するプロジェクトを立ち上げ、日本人の美徳をまとめた各国語小冊子600万部を無料配布、200億円を来年度予算として計上する、という内容だった。
これらは「虚構」として書かれたものだったが、約2年の時を経て一部が現実となってしまった、というのだ。虚構新聞によると、それは、経済産業省が17年3月8日、「世界が驚くニッポン!」というコンセプトブックを公表したことだという。
コンセプトブックでは、日本人独特の自然観から導かれる概念を説明しており、そのうちのひとつに
「自然との同化感覚が、自然の恵みに感謝し、謙虚であろうとする道徳、倫理観にもつながっている」
との記述がある。また今後の方針として、電子書籍の無償配布を検討していることも明らかにしていた。
改めて虚構新聞編集部が詳しく調査を進めたところ、2015年の記事本文の半分以上の政策がほぼ現実化されたこと、さらに事業を推進する「クールジャパン機構」に今年度予算210億円の出資等資金供給が計上され、「200億円計上」という箇所がほぼ正確だった点を「問題視」した。
調査の結果を受け、虚構新聞は4月6日、「『日本の「謙虚」、海外アピールに200億計上』についてお詫び」と題した文書を発表。
「虚構世界の現実を伝えることを目的とする本紙におきまして、記事が一部現実化してしまったことを、関係者と読者のみなさまに深くおわびいたします」
と謝罪した。
そのうえで、「読者の信頼を裏切ってしまった」ことに遺憾の意を表すと同時に、
「日本人の美徳とされる『謙虚』や『奥ゆかしさ』を海外に向けて積極的にアピールするという、初歩的な矛盾をはらんだ政策を経産省の官僚や識者があえて堂々と実行するという形で、記事が現実のものとなってしまったのは痛恨の極み」
だと皮肉った。
「現実がこちらにすり寄ってきた」
当該記事を執筆した虚構新聞社主UKさんは
「こちらが現実に近づいたというより、現実がこちらにすり寄ってきた気がして腑に落ちない」
と弁明しており、読者からも「気の毒」だと同情の声が寄せられている。
ツイッターでは、
「虚構新聞は誤報にちゃんと謝罪するんだな」
「虚構新聞より真摯な謝罪をするメディアは日本に存在しない」
など、虚構新聞の姿勢を称えたり、
「現実の虚構新聞化が著しい」
「あるべき日本の姿を書いたほうがよっぽど虚構新聞になるんじゃない」
と、現実社会の日本を揶揄したりするコメントが見受けられる。
虚構新聞が誤報を伝えるのは15年10月1日付の「シャープ、゜の売却を検討 経営再建策」の記事で、その当日、シャープの公式ツイッターアカウントの社名表記が一時「シャーフ」となって現実化して以来のこと。翌日、「部分的ながら記事が現実化してしまった」とお詫び文を掲載した。
虚構新聞は、「再発防止策」として、「入念な調査に基づくこれまで以上に現実離れした政策を報道する」と表明している。