ソニー株は、新年度最初の取引となる2017年4月3日以降は反落気味だが、3月31日まで4営業日連続で取引時間中に「昨年来高値」を更新し、31日の高値は3792円に達した。2017年3月期連結決算は、熊本地震で一部の生産が止まったダメージがあるほか、電池事業や映画事業で損失を計上するため、純利益は8割超の大幅減益を見込む。しかし、2018年3月期はこうした影響が消え去ることでV字回復の可能性が高まっていることが株価には追い風だ。
市場が注目しているのは、2016年10月に発売した「プレイステーション(PS)VR」(税別4万4980円)が好調なことだ。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は17年2月27日、「PSVR」の販売台数が2月19日時点で91万5000台と発表した。当初の生産計画は需要を慎重に見積もって立てたこともあり、世界的に品薄が続いているという。
好調なイメージセンサーが半導体事業をけん引
PSVRは仮想現実の映像の世界に入り込んだ感覚が体験できる機器で、ゲーム機「PS4」につないで遊ぶ。PS4は世界で累計5000万台以上売れており、今も販売の勢いを保つ。PSVRの保有者はPS4の保有者の2%以下にとどまり、潜在的なPSVR購入者はまだまだいるとみられていることが、投資家にソニーの「成長力」を期待させている。プレステシリーズを含むソニーの「ゲーム&ネットワークサービス分野」は2016年10~12月期に前年同期比5.2%の増収、同24.5%の営業増益だった。ソニーは「PSVRの貢献が大きい」としている。関係者の間ではPSVRの2018年3月期の出荷台数は300万台程度、売り上げは1000億円超と見込まれる。ソフトも数百単位で開発中といい、合わせて業績改善に寄与することが確実視されている。
期待が高いのは、スマートフォンなどモバイル機器向けイメージセンサーも同じ。好調なイメージセンサーが半導体事業をけん引する。1枚の写真を撮るために2つのカメラユニットを使う「デュアルカメラ」と呼ばれる装置は需要が拡大しそうだ。米アップルの「iPhone(アイフォーン)」シリーズに採用されており、他社でも搭載機種が多くなるとみられている。2016年10~12月期の半導体事業の売上高は前年同期比16.9%増の2339億円、営業利益は27.6%増の272億円に拡大した。事前予想では赤字を見込んだ社もあり、想定外の好調さを示した。ゲームや半導体のようなエレクトロニクス事業においてソニーは部品のドル建て調達が多く、為替の影響を受けづらいのも好感されている。
2020年代を見据えた成長軌道を描けるか
うみも出尽くした感がある。2017年3月期に映画事業で1121億円の減損損失を計上する。映画のヒット作が乏しい中、動画配信の普及でDVDソフトなどの販売が苦戦するとみて、事業価値が目減りした分を損失として処理する。電池事業の売却に伴う減損処理328億円も2017年3月期に計上する。残された懸案を処理する一方で、赤字転落を避けるために保有する医療情報サイト運営会社、エムスリー株の一部売却で約370億円の売却益を出す点も市場に安心感を与えている。ソニーは2018年3月期の営業利益を5000億円以上にする(2017年3月期は2400億円の見込み)目標を掲げているが、「必ずしも高くない」(国内証券系アナリスト)との見方も出始めている。
3月31日には、一時代を画した東京・銀座の数寄屋橋交差点にあるソニービル銀座が閉館した。取り壊した後、2018~20年にはイベント広場「銀座ソニーパーク」として開放。東京五輪後に新ビルを建設し、22年に完成する。銀座の新ビルのように20年代を見据えた成長軌道を描けるか、ソニーの今後に市場は注目している。