「酒は百薬の長」といわれ、よく医者も「適度の酒ならストレスを解消し体にもいいですよ」と太鼓判を押す。ところが最近、「適度な酒でも体によくない」と、真っ向から否定する研究が発表され、左党をガッカリさせていた。
そこへまた「いやいや、ほどほどの酒ならやっぱり健康にいいよ~」という研究が登場した。約200万人規模のビッグデータがもとの最終結論的な発表だ。「ひゃあ~」と嬉しがったアナタ、酒をススませては元も子もないという。
「酒は百薬の長」は統計ミスによる幻だった?
酒と健康については、「適度の酒なら、まったく飲まない人より長生きする」とする研究が多くある。代表的なものが1993年に米国保健科学協議会が各国の諸研究を集約した「Jカーブ効果」説だ。「適量の酒を飲む人の全死亡率は、まったく飲まない人、また飲み過ぎる人に比べると最も低い」というもので、全世界共通の傾向という。縦軸に死亡率、横軸に酒量を記したグラフで、「適量の酒」の死亡率が底になるカーブが「J」の字になることから名づけられた。
この「定説」をひっくり返したのが、豪州国立薬物研究所のターニャ・クリスティー博士らが2016年3月、国際アルコール研究誌「JSAD」に発表した研究だ。クリスティー博士は、酒と健康に関する過去の論文計87件を分析した結果、「重大かつ基本的な誤り」に気づいた。「過去の論文の多くが、病気が原因で禁酒している人々を考慮の対象から除外している」というのだ。
博士によると、酒を飲まない人の中には「糖尿病や心臓病などで医師から禁酒させられている人」「その他、体が弱くて酒を飲めない(あるいは飲まない)人」がいる。こうした人々は早死にするリスクが高いのに、「非飲酒者」の中にひとくくりにされ、「酒を飲む人」と死亡リスクを比較する際、統計に反映されなかった。そこで、「病気などによる禁酒」を考慮しない論文を除外し、残りの論文を分析し直すと、「適度の酒が健康的で長寿をもたらす」という結果は得られなかった。左党を喜ばせてきた「定説」は、「統計ミスによる幻」だったというわけだ。