動画生配信サービス「Ustream(ユーストリーム)」が、日本へ本格上陸したのは2010年のことだ。ソフトバンクの出資を受けてUstream Asia社を設立、ソーシャルメディアブームの波にも乗り、一気にネット界のトレンドとなった。
国立国会図書館のデータベースによれば、この年だけで20冊近くの関連書籍が発売されている。書名の一部を列記すれば、『USTREAMがメディアを変える』『世界を変えるネット生中継』『無料でできるテレビ局』......。そのUstreamが、姿を消す日がやってきた。
親会社IBMのサービスに取り込まれる
Ustreamは、米IBMのサービス「IBMクラウド・ビデオ」の一部として統合されることとなった――2017年4月1日(米国時間)付で、そんな告知が公式サイトに掲載された。しばらくはサイト上などでもUstreamの名前は残るものの、段階的にこれも差し替えられていくという。
Ustreamは2007年、動画生配信サービスの先駆けとして米国で誕生した。2008年の米大統領選での活用が話題となり、日本でも2010年には民主党(当時)政権の「事業仕分け」をはじめ、政治家からメディア、アーティストにいたるまで、競い合うように生放送が行われた。2011年の東日本大震災では、各局がテレビを見られない視聴者のため、Ustream上での「再配信」を行うなど、災害時の社会インフラとしての役割も果たし、注目はさらに高まった。
しかし、「ニコニコ生放送」「ツイキャス」など競合サービスとの戦いの中で、その存在感はゆるやかに低下していく。有料モデルへのシフトチェンジも試行したが、必ずしも成功しなかった。2015年12月にはUstream Asia社が本社に吸収されて事実上の日本撤退、その本社も2016年1月に上述の米IBMに買収された。
IBMクラウド・ビデオは、主に企業などの利用を想定したB to B型のサービスだ。動画ストリーミングのほか、映像データの高速送信などを主な機能として擁している。日本IBMの広報担当者によれば、IBMとしても力を入れているサービスのひとつであり、今回の統合もその強化の一環だという。今後Ustreamのシステムは、社内でのビデオ会議などの用途に主に活用される。なお、既存アカウントの取り扱いや、ブランド切り替えのスケジュールについては、今のところ不明だという。
時代の移り変わりに対応しきれず
Ustreamはなぜ消滅の道をたどったのか。ITジャーナリストの井上トシユキさんは、いくつかの要因を指摘する。
ひとつは、インタラクティブ性の問題だ。Ustreamはチャットやツイッターでのコメント機能などを搭載していたものの、この点では、ニコニコ生放送や、後発のサービスに比べ見劣りがしたと井上さんは言う。
「生配信は誰でもできるんですが、クオリティーの高い、『見せる動画』にするのは簡単ではない。閲覧者を集め、自らの『承認欲求』を満たせるのはごくわずかです」
こうした部分を補完する「コミュニティー」づくりが、Ustreamはうまくいかなかったのでは、と見る。
もうひとつは、「動画配信」という行為が当たり前となってしまったことだ。
「今やツイッターやフェイスブックなどでも、『みんなで花見です!』というような動画を、簡単に生配信できるようになってしまいました。『動画配信』という行為へのロイヤリティーが低下し、SNSでの投稿の『選択肢』のひとつに過ぎなくなったわけです。そうなると、動画配信単体のサービスであるUstreamとしては苦しいでしょう」
井上さんはUstreamに限らず、スマートフォンの時代に移り変わる中で、ネットサービスは転換期にさしかかっていると語る。
「つい先日、世界のOSシェアで、Android(アンドロイド)がWindows(ウィンドウズ)を抜いて、初めてトップになったという調査結果が出ました。これを見ると『パソコンの時代』は完全に終わったな、と感じますね。Ustreamにも、こうした時代の変化が影響したということはあると思います」