北里大学名誉教授でDAA(アンチエイジング医師団)の塩谷信幸氏は、前回の記事で、豊胸手術の際に海外では使用禁止の製剤が日本で使われているケースがあると指摘した。
近年では、日本の豊胸施術で「ポリアクリルアミド」を使った治療が増えているという。塩谷氏は現段階では、絶対にすべきではないと強く主張する。
美容外科医の数「学会も医師も行政も把握していません」
「ポリアクリルアミドは、劇薬になるアクリルアミドという分子がいくつかつながっているものが含まれた製剤です。豊胸術では、『アクアフィリング』などと称して施術が紹介されていますが、その安全性は確かめられていません。ポリアクリルアミドは、体内に吸収されないため一度注入したら永久に効果が続くとうたわれていますが、裏を返せば、トラブルが起っても取り除くのは難しいとも言えます」
ポリアクリルアミドに限らず注入剤を使った治療は、アレルギーなどの異物反応、注入剤が血管につまって肺などの組織が壊死したりすることなどのトラブルが起きる可能性がある。
豊胸手術は国内でどのくらい行われているのだろうか。その疑問に、塩谷氏は「正確な数は把握できていないが、少なくはない」と答えた。すべての美容クリニックが症例数を正確に記録しているわけではないし、専門外の医師も美容手術をしている可能性があるからだ。
「日本で美容外科を行っている医師がどれだけいるのか、学会も医師も行政も把握していません。まして、美容医療を受診している人がどのくらいいるかも分からないのが現状です」
美容医療トラブルは、患者が治療を受けたことを誰にも知られたくないという傾向があるため表面化しにくい。
信頼できる医師を探すには
信頼できる医師を探すには、まずは日本美容医療協会が認定している医師(適正認定医)を参考にするのが良い。
受診して即日手術を勧められても、納得いかなければ手術を断ることが大切だ。そして、もう一度本当に必要な手術なのかをよく考えてから再度、医師と話し合うようにしたほうがいいと塩谷氏は言う。
「美容目的の手術は、通常なら医師の方から即日手術を勧めることはありません。どんな手術でもそうですが、美容外科でも絶対安全ということはありません。簡単そうに思える施術でも、麻酔を使うことでショック状態に陥ったりするリスクもあります。美容外科を受ける際に大切なのは、迷ったらやらない。やりすぎてしまっては元に戻すのは困難。後悔するなら、やり足りない方がいいと思ってください」
(初出「Aging Style」。一部加筆しています)