イチローは50歳まで現役を続ける
天才打者が生き残るために選んだのは、自身の打撃理論「グリップを最後まで出さないテクニック」から距離を置くことだった。手を早く出すことで、ボールを捉えるまでの時間を短縮でき、外国人投手の速球にも反応できるようになった。
だが、それまでの「手を出さない」との整合性はどうなったのだろうか。イチローは
「(手が)出るんです。出るんですけど、最後なんですよ。手を出そうとしたって残っているんです」
とうれしそうに語った。まるで野球を覚えたばかりの少年のようなまなざしで。
「(プロ生活)25年で、こんなことあるんだなって。新しかったですね」
調子があがってきた16年7月、イチローはインタビューで、打席に立つと必ず「1番遅い球を待って、速い球に反応する」よう心がけていると話した。遅い球とは変化球、速い球は直球のこと。イチローは常に、相手投手がいつカーブやスライダーなどを投げても反応できるような体勢で、150キロ台の真っ直ぐに反応する。真っ直ぐのタイミングで打ちに行くと、体より先に手が出てしまい、アウトになる確率が高まるからだ。
番組はこの点を、日本球界のシーズン最多安打記録保持者・秋山翔吾外野手(西武)にも聞いた。秋山は「基本的には、『速いボールから変化球対応』が理想かなって思います。変化球を待っていたら、変化球しか手が出せない」と、イチローとは逆の打撃論を話し、「(イチローが)間に合うのがすごい」と驚いた様子。イチローは以前から「グリップを最後まで出さないテクニック」を意識し、ボールをぎりぎりまで引き付けて打つ姿勢が、天才打者の打撃を築き上げていたのだった。
イチローは常々、50歳まで現役を続けるのが目標だと明言している。大リーグの公式サイトによると、先日も地元紙「マイアミ・ヘラルド」に「この話をする時は、ジョークで言っているわけではありません」と語ったばかり。番組のインタビューでも、自身の年齢を不安視する声を一蹴した。
「走ったら(大リーグで)ほぼ1番速くて、投げてもそうだろうし...打つことだけ、年齢のせいになるかなあって...これから僕の絶頂期が来るってどうして考えられないんだろう」