トランプ派も利用した
ところが設置された数日後の夜、この少女が「トランプ支持者」に早変わりした。夜中にスカーフとサングラスで顔を隠した男性2人が現れ、トランプ大統領のスローガン「Make America Great Again(アメリカを再び偉大な国に)」が書かれた赤い野球帽を少女像に被せ、星条旗で体を覆った。ふたりが用意した大きなボードには、「REPORT DEPORT(報告しろ。国外退去させろ」、「VETS B4 ILLEGALS」(移民よりまず、退役軍人だ)などと書かれていた。翌朝には、少女像はもとの姿に戻っていたという。
少女像の出現に憤慨し、撤去を訴える人もいる。雄牛像の製作者、アルトゥーロ・ディ・モディカ氏だ。
「私の雄牛像は芸術作品だが、資産運用会社の依頼で作られた少女像は、企業のマーケティングにすぎない」と彼は批判する。
「bull」は「雄牛」で、「bull market(ブル・マーケット)」は「上昇相場」の意味がある。1989年に株式市場が暴落した直後の12月に、アメリカを活気づけようと、モディカ氏がニューヨーク市民へのクリスマス・プレゼントとして、自費で35万ドルかけて製作、市の許可を得ずに設置した。
「女性の地位向上に反対するわけではないけれど、私の彫刻はそういうものではない。雄牛はアメリカ、そして反映と強さのシンボルなんだ。少女像は、私の雄牛像を迫害者に仕立て上げ、意味合いを変えてしまう破壊行為だ」と訴える。
少女像を設置した会社自体が、男女雇用機会均等を訴えていながら、最高幹部28人のうち女性はわずか5人と、同社の矛盾を指摘する声もある。
「女性の雇用率が高くなれば、業績が向上する」などという同社の主張に対しても、「経済効果だけが女性参画の理由になるのはおかしい」と一部のフェミニストは反発する。
この少女像のそばに、「自由の女神」が立つ「リバティ島」行きのフェリー乗り場がある。果たして、「自由の女神」のような普遍性を、この少女像が持つことになるのだろうか。(随時掲載)
++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社 のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓 を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1 弾から累計35万部を超え、2016年12月にシリーズ第7弾となる「ニューヨークの魔法 の約束」を出版した。著書はほかに「アメリカの 家族」「ニューヨーク日本人教育 事情」(ともに岩波新書)などがある。