巨人がこれほど不安を抱えてシーズン本番を迎えるのは珍しい。オープン戦5勝14敗で12球団の最下位。さあ、どうする...。
「巨人が優勝しないと景気がよくならない」
巨人を応援する「燦燦会」(さんさんかい)が開催されたのは2017年3月27日。この後援会は古くから財界人などが顔をそろえることで知られる。
「進化をモットーに優勝を期待する」
こうゲキを飛ばしたのは御手洗富士雄会長。キャノン会長CEOである。およそ200人の出席者は呼応して拍手した。
実はこの会、激励と同時にチームにプレッシャーを与えることもあり、とりわけ監督は神経質になる。
今年もそうだった。
「巨人が優勝しなきゃ(世の中の)景気が良くならないんだ。31日には実力を発揮してもらう」
ご存じ渡辺恒雄氏のゲキだ。この通称ナベツネは今、読売新聞グループ代表取締役主筆で、簡単にいえば総帥。政界にもニラミをきかせる存在でもあり、その発言力は衰えていない。
「野球はシロウトだけど、勝つことが大好き人間」
担当記者の評である。かつて長嶋も王も監督時代に、「常勝」を求めるナベツネ語録にほんろうされた。
開幕は菅野でなくマイコラス
2年目の高橋監督が現在その立場にある。
「化学反応」
こんな球界には聞き慣れない単語を使って健闘を誓った。
「現有戦力、新戦力、若い力、それらの全ての力を化学反応させることで、選手とチームが成長、進化し続ける1年にできればと思っている」
どう化学反応するかは今後の期待だが、オープン戦の勝率2割6分3厘は、ファンをやきもきさせる低い数字だった。
29日に公示された一軍選手を見ると、補強の目玉だった山口俊投手(前DeNA)と陽外野手(前日本ハム)が調整不足で外れた。吉川投手(前日本ハム)は不安定で、かつてのMVPの面影がない。ドラフト1位もいない。
開幕投手はマイコラス。エース菅野はWBCの疲れを理由に見送った。
それでも専門家やメディアは「戦力は充実」と評価する。いい選手はそろっている、ということである。なかでもWBCで成長した小林捕手は注目の一人だ。
フロントは大金を投じて戦力補強しているから、その対価として優勝を義務づける。ナベツネ氏の言う31日は開幕日のことで、その日に強さを見せてくれ、という至上命令なのだ。優勝を作り出す化学反応はドクター高橋監督の隠し球といっていい。
(敬称略 スポーツジャーナリスト・菅谷 齊)