【震災6年 ふるさとの今(4・完)宮城県気仙沼市】
「苦境」逆手、活路はシンガポールに 水産加工、団結の力で交渉力

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中国、韓国は今も被災地の輸入停止

   販路の課題もある。震災直後は事業が停止した影響で、製品が供給できなくなった。顧客側は別の地域や業者から商品を確保するようになり、結果的に国内販路の一部を失ったのだ。

   国内での販売は、将来苦戦が予想される。そこで組合では、日本とは逆に魚介類の消費量拡大が見込まれる海外に注目した。組合所属の各社が製造する水産加工品を売り込み、外国へ販路を広げていこうというのだ。

   ただアジアでは、中国や韓国といった隣国がいまも被災地からの水産物の輸入を停止している。そこで、ターゲットをシンガポールに定めた。1人当たりGDP(国内総生産)が世界でも上位で、組合の水産加工品を購入できる顧客層があるのも、選定の理由となった。対象は日本食レストランではなく、あくまで現地のバイヤーや飲食店だ。

   海外との取引経験が乏しい企業が多いため、組合をバックアップする三井物産が、現地と太いパイプを持つ輸出業の日本企業に販路開拓を要請した。資金面は農林中金がサポートする。農林中金仙台支店長の榎本浩巳氏は、この取り組みについて「被災地のみならず、国内消費減という課題を抱える全国の農林水産業における先駆的なモデルケースとなり得る」とコメントした。

   海外相手となれば、組合の「規模の力」が生きる。例えば海外市場を視察したり、現地で商品の見本市に参加したりする場合、中小企業だと費用面で厳しい。組合なら今回のように金融機関や商社の支援を受けやすく、水産加工会社としては組合経由で現地事情の情報を得られる。

   2017年2月、シンガポールのバイヤーを気仙沼に招待した。先方の希望を組合で吸い上げて最適な商品を提案する中、早くも具体的な商談に入るケースも見られた。バイヤーたちが鹿折にある水産加工工場を視察した際は、衛生管理状態を高く評価。実は現地ではいまも、気仙沼に原発事故の影響があるのではとの懸念が完全には消えていないようだが、雑菌の入り込む余地もない清潔な環境に「問題ない」と安心していた。

   3月には、気仙沼の代表団がシンガポールに渡りPRイベントを開いた。シンガポールの消費者は、日本人と味の好みが違う。まず食べてもらうのが大切だ。現地のレストラン関係者やバイヤー、政府関係者、メディアを招いて水産加工品を使った料理をふるまった。参加者からは好評で、その場で発注が来たほどだ。別の日には現地の人気ブロガーを招き、若者への情報発信を期待する。

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