歯科医院で、男の子のイラストに「けがで抜けた歯は元に戻る」と書かれたポスターが貼られていたとツイッター上で話題になっている。
折れたり欠けたりした歯だけでなく、抜けてしまった歯でも元に戻せるという話は耳にすることがあるが、治療を受けるまでどのように保管するかはインターネット上でも様々な情報がある。正しい方法を取材した。
抜けた歯の汚れを洗い落すのはNG?
歯は顎の骨に固定されているわけではなく、くぼみに乗っている状態であり、強い衝撃が加わると「脱臼」して抜け落ちることがある。
ポスターは子ども向けで、抜けた歯を探し出したら砂や泥などで汚れている場合は水道水で洗い、牛乳の中か口に入れてほほのあたりでいったん「保管」、もしくは抜けた部分にはめてすぐに歯科医院に行くよう促す内容だ。
ポスターを見ると子どもだけの話かと思えるが、東京歯科大学のウェブサイトで公開されている「歯科学報 Vol.110 No.3(2010)」によると、成人の永久歯が抜けた場合でも、適切に保存して医療機関を受診すれば再植(抜けた場所に戻すこと)が可能だという。
気になるのは抜けた歯の適切な保存法だ。ネット上にある、歯が抜けた場合の応急処置法の情報を見ると、歯科医によっては「抜けた歯を水道水で洗うと塩素で歯の根にある細胞が死んでしまうので、洗ってはいけない」という意見もある。ポスターの説明とは正反対だ。ツイッター上でも、ポスターの画像を見た人から「水道水で洗うってご法度だった記憶が」といったツイートも寄せられていた。
J-CASTヘルスケアが歯科系の学会数か所に電話取材を試みたところ、ガイドラインなどで明文化されていないため学会としてのコメントはできないとしつつ匿名で応じたある学会の担当者は、こう答えた。
「水道水で洗うこと自体が問題ではなく、ポスターは誤りではありません」
ただし歯の根の部分には「歯根膜」という組織があり、この部分が水流によってはがれ落ちたり損傷してしまうと、再植が困難になる。
「砂や泥汚れ程度であれば、持ち込まれた医療機関で生理用食塩水などを使用して洗浄するという対応がとられるかと思います。むしろ大切なのは歯を乾燥させないようすぐに液体内で保管することです」
日本小児歯科学会のウェブサイトでも「乾燥させないように歯の保存液(学校の保健室にある場合もあります)、冷たい牛乳、生理食塩水、それらがなければ水でいいので、とにかく乾燥させないで、出来れば30分以内に歯医者さんに行きましょう」と繰り返し乾燥させないよう訴えている。
牛乳以外に保存できる身近なものは
日本蘇生協議会のウェブサイトで公開されている「蘇生ガイドライン 2015 オンライン版」には、歯の脱落時の応急処置法が記載されている。これによると歯を一時的に保存する液体として推奨されるのは「歯の保存液」「プロポリス」「卵白」「ココナッツウォーター」で、これらの液体が手に入らない場合は生理用食塩水よりも全乳が望ましく、唾液はあまり意味がないとしている。
では水に漬けるのはどうだろう。前述の蘇生ガイドラインには水道水と牛乳に漬けた場合の歯の細胞生存率を比較したデータを載せている。「エビデンスレベル(データの科学的な信頼度)はやや低い」とされているものの、牛乳の平均生存率が約91%なのに対して水道水は約45%と、半分以下だ。とはいえ死滅ではないため、牛乳すらない状況であれば水道水でも望みはありそうだ。