「政策遂行のためにいつ何が起きるか分からない」
事業の再編・統合で最も進んでいるのは火力発電事業だ。火力について東電HDと中部電力は折半出資の「JERA」を設立しており、既に両社の燃料調達事業や海外発電事業などは段階的にJERAに移管済みだ。最後まで残った、両社の既存の火力発電施設についても、今回の再建計画で移管する方針を明記した。この点について両社は近く基本合意する見通しだ。
中部電は原発事故処理費用の負担を警戒して既存火力の移管には慎重姿勢だったが、東電HDの新たな再建計画に「健全な財務体質実現や成長資金確保のためのルール化を協議する」と盛り込まれたことを受けて、火力全面統合の踏み込むことにした。近くルール作りに入る見通しだ。このルールは、送配電や原発事業の再編・統合にあたっても実現のカギを握ることになりそうだ。
送配電と原発事業の再編・統合については、原子力損害賠償・廃炉等支援機構が今17年秋に進捗を確認し、国とも協議して必要な対応を東電HDに求めることも再建計画に明記した。議論を前に進めるため、全国の電力会社と課題を共有する場を早期に設ける。このうち送配電事業については、2018年度までに原価を国内最低水準に抑制したうえで、「2020年代初頭に統合的運用を担う共同事業体を設ける」と期限にも踏み込んだ。
こうして見てきたように、東電HDの新たな再建計画には、あの手この手で送配電と原発事業の他社との再編・統合を進める「仕掛け」が設けられているのがポイントとも言える。火力については中部電が完全統合を受け入れることになったが、送配電と原発事業について他社の警戒は解けていないからだ。
しかし、いくら「福島原発の事故処理費用負担のリスクは遮断する」と言われても、東電HDが実質国有化されている以上、その経営判断には最終的に国の意向が反映されるため、「政策遂行のためにいつ何が起きるか分からない」(西日本の大手電力幹部)。ただでさえ現状維持を望む気風の強い大手電力各社のこと、容易には再編・統合に乗り出しそうになく、その実現の道筋は険しそうだ。