「最後まで投げさせてください」に相手チームも拍手
それから約1年半後、0対91で敗れた今回の試合だが、豊田監督は「そりゃ悔しいですよ。悔しくて悔しくてたまらない。何人も泣きました」としながら、「でも、光栄だなとも思いました」という。
「今までは、ピッチャーがストライクに入らず四球が続く試合ばかりでした。すると、相手チームは20~30点も差がつくと、試合を終わらせようとバントして自らアウトになるんです。でも今回の宇治山田商は県屈指の強豪ですが、フルメンバーで最後の最後まで攻撃の手を緩めませんでした。うちのピッチャーもストライクを入れられるようになりました。これは『終わらせてもらっていた試合』と違い、勝負の中ではっきりとついた91点差だったと思っています。初めてチームとして認められたという感覚でした」
試合中に起きたこんなシーンも明かした。4回の英心の守備、ピッチャー返しの打球が投手の腹に直撃し、立ち上がれなくなった。豊田監督が「交代だな」と告げると、「最後まで投げさせてください」と食い下がった。監督が折れて続投させると、宇治山田商のベンチが立ち上がり、マウンドに再度立ったエースに拍手を送ったという。4回の守備を終えてベンチに戻ると、「投げさせてくれてありがとうございました」と豊田監督に礼を述べた。この投手は中学まで不登校だった。
豊田監督は「点差がついても全員が最後まで声を出し続けていました。30点取られても『1点ずつ取り返そう』と言い続け、誰も諦めませんでした」と話す。翌日の練習には部員全員が参加した。
「不登校だった子が、ただ学校に来るようになるだけではダメだと思っています」とした上で「私は野球を通じて心がしっかりと育ってほしい。自分の将来に前向きになり、人間性が形成されていってほしいです。うちの高校の生徒は体力的にもちょっとひ弱なので、野球で受験勉強のための持久力や忍耐力もつくと考えています」と話している。