北朝鮮の金正男氏の暗殺から40日以上が経ち、新たな局面を迎えている。正男氏の遺体が病院から移送されたとマレーシアメディアがいっせいに報じ、それと前後する形で、マレーシアの警察官がクアラルンプールの北朝鮮大使館を訪れ、事件との関係が疑われる人物から事情聴取を行ったとみられるためだ。
こういった動きは、マレーシアと北朝鮮何らかの合意に至った結果だとも指摘されている。マレーシア政府は2017年3月26日、同日中にも何らかの発表があると説明していたが、27日夕方時点でも発表は行われておらず、詰めの交渉が難航している可能性もある。
「宗教的儀式」のために移送、と報道
正男氏の遺体は、殺害された2月13日から、司法解剖のためにクアラルンプール市内の病院に安置され、引き渡しを求める北朝鮮側とマレーシア政府との攻防が続いていた。マレーシアのザヒド副首相は3月15日、正男氏の子どもからDNAサンプルの提供を受けて遺体の身元を確認したことを明らかにし、マレーシア警察のイブラヒム副長官は翌16日、「遺族が政府に(遺体の取り扱いを)任せたと理解している」と説明。マレーシア政府がどう対応するかに注目が集まっていた。
現地紙のニュー・ストレートツ・タイムス(電子版)によると、トヨタのミニバン「ヴェルファイア」が3月26日14時頃、遺体が安置されている病院に入り、すぐに出て行った。同紙は、ミニバンが病院から出ていく様子の写真を
「金正男氏の遺体が病院から運び出された」
という説明つきでウェブサイトに掲載。情報筋の話として、遺体は「宗教的儀式」のために移送されたと報じた。国営ベルナマ通信は、この車の出入りまでは病院入口の門は厳重に警備され、常に閉まった状態だったが、車が去ってからはわずかに開いており、人が行き来する様子も見られるなど、警備が緩くなったと指摘している。
「人質外交」に妥協迫られたとの見方も
ただ、今後の遺体の扱いについては諸説が報じられている。ニュー・ストレートツ・タイムスは
「遺体が火葬されるのか、土葬されるのか、それとも再び霊安室に戻されるのかは明らかではない」
とするにとどめているが、韓国の聯合ニュースは
「マレーシア政府は前日から正男氏の遺体引き渡しを要求する北朝鮮と非公開で協議を進めてきた。現地外交筋は北朝鮮に引き渡すために遺体が火葬された可能性を指摘する」 と「火葬」説をとる。
中国語紙「中国報」は、3月26日に警察官4人が2時間30分にわたって北朝鮮大使館を訪れ、事件への関与が疑われている二等書記官や国営高麗航空職員ら3人への事情聴取を行ったと報じた。北朝鮮側が事情聴取に応じる代わりにマレーシア側は遺体の引き渡しに応じた可能性もあり、韓国の英字紙、コリア・ヘラルドは、
「(平壌の大使館員ら)マレーシア人9人が北朝鮮から出られなくなったり、北朝鮮政府の非協力的な態度が原因で捜査が暗礁に乗り上げたりと、マレーシアにとっては、今回の事案は国内的にも国際的にも政治的重荷になってきた」
として、北朝鮮の「人質外交」が原因でマレーシア側が「合意」せざるを得なかった可能性を指摘している。
「遺族がマカオで受けとる調整」か
一方で、遺体は家族に引き渡されるとの説もある。マレーシアの英字紙「ザ・サン・デイリー」は3月27日、
「遺体は送還の前に、葬儀場とみられる不明な場所に移送されたことが分かっている」
「正男氏の遺族と連絡を取っている外務省が、明日までに遺族が遺体をマカオで受けとることができるように調整しているとみられている」
と報じた。
スブラマニアム保健相保健相は3月26日、正男氏の遺体の取り扱いを急ぎたい意向を表明、保健省と外務省、首相府、北朝鮮との協議が続いていると説明し、
「発表は今日にもあるだろう」
と話した。遺体が北朝鮮に送り返されるかどうかについては、
「分からないが、まもなく決定があると聞いている。ナジブ首相が発表する」
と応じたが、3月27日夕方時点で、マレーシア政府からの発表はない。