世界経済の発展に向け、マクロ経済政策の国際協調を協議する主要20か国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が2017年3月17、18日、ドイツのバーデンバーデンで開催された。発表された共同声明には、最大の焦点だった貿易に関し、「保護主義に対抗する」という従来からの「慣用句」は盛り込まれなかった。米国の要求に押し切られた形で、国際協調に亀裂が生じることになった。
今回の会議は、「米国第一」を掲げ、国内産業の保護を公然と唱えるトランプ大統領が就任して初めての開催。貿易、通貨政策、さらに地球温暖化などについて、何が変わり、何が変わらないか、世界が注目した。
「保護主義に対抗」も「公正な貿易」も使わないことで決着
最大の焦点だった貿易について、共同声明は、2016年の声明にあった「あらゆる形態の保護主義に対抗する」という文章に替わり、「世界経済への貿易の貢献を高めるよう取り組む」という表現が盛り込まれた。また、「過度の世界的な不均衡を縮小し、さらなる包摂性と公正さを高め、格差を縮小するために努力する」とも明記した。
これらの表現は、中国、日本、ドイツなどに対する米国の貿易赤字を減らすため、米国に有利な貿易関係をめざすトランプ政権の主張に沿うものだ。
関係者によると、会議では多くの国が、自由貿易の重要性や反保護主義を声明で謳うべきだと主張したが、ムニューシン米財務長官は応じなかった。一方、米国は、日中に米国の貿易赤字削減を迫る際のトランプ大統領の常套句「公正な貿易」を、声明に盛り込むよう主張したが、これには逆に英仏中などが反発した。各国の思惑が錯綜する中、議長国ドイツは声明とは別の付属文書の作成も提案するなどしたが、結局、折り合えず、最終的に「保護主義に対抗」も「公正な貿易」も使わないことで決着した。
もう一つ注目された通貨政策については、「通貨の競争的切り下げの回避」など、従来のG20の合意内容がそのまま声明に盛り込まれた。
このほか、2016年の声明にあった地球温暖化に関する文章はすべて削除され、これまで確認してきた「難民支援の強化」も盛り込まれなかった。温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」離脱を主張し、イスラム圏6か国からの入国を規制する新たな大統領令を打ち出したトランプ政権の意向が反映されたものだ。
5月にはG7サミット
通貨政策では、トランプ大統領が中国や日本の元安、円安誘導への批判も口にしていただけに、会議での米国の出方が注目されたが、過去の声明文の踏襲をあっさり認め、矛を収めた。ムニューシン長官は、麻生太郎財務相らとの2国間会談でも「強いドルは長期的に重要だ」と繰り返した。これは、トランプ政権が貿易赤字削減と国内雇用拡大をなにより優先しているからで、当面、2国間での通商交渉に全力を挙げるというサインとみられる。ただ、「今後の為替や貿易収支の動向、通商交渉の進展などもにらみながら、必要とあらば通貨も交渉材料、脅しの材料として持ち出してくる懸念は消えない」(通商関係者)。
会議前後の各国の発言が、それぞれの立場を明白に示している。ムニューシン長官は、「我々は自由貿易を信じているが、均衡の取れたものであるべきだ」として、「米国は貿易赤字を長く抱えており、是正することが重要だ」と赤字削減を求める姿勢を強調。「過去の声明の文言は適切なものではない」と、米国が声明の文言に注文をつけて変更させたことを隠さなかった。
これに対し、中国の肖捷財務相がG20に合わせて開かれた討論会で、「G20は揺らぐことなく保護主義に反対するべきだ」と発言したほか、欧州諸国も自由貿易の重要性を語った。
麻生太郎財務相は微妙な立場をにじませた。会議で、「自由で公正な貿易のルールに基づき、貿易のコストを上げるべきではない」と、米国を刺激しないように発言し、会議後の会見でも、「自由貿易を否定する発言はなかった」と説明し、声明から「反保護主義」が消えたことについて「米国に特に配慮した感じもなかった」と、米国を「かばう」言い回しに終始した。日本は中国に次ぐ第2の巨額の対米貿易黒字を抱えるが、安倍晋三首相の訪米でトランプ大統領と直談判し、麻生財務相とペンス副大統領をヘッドとする協議の枠組みで合意。逸早くトランプ流の2国間協議に向けて動いていることから、「対米交渉を静かにスタートさせたい思惑もある」(全国紙経済部デスク)。
議長国として、ドイツのショイブレ財務相は会議後、「米国の新政権が現状確認の時間が必要なのは普通のことだ。もう一度話し合うこともできる」と述べ、4月のG20財務省・中央銀行総裁会議、7月のG20首脳会議(独ハンブルク)をにらんで、今後の議論への「つなぎ」と位置付けて見せた。
そもそもG20は、1990年代後半のアジア通貨危機に対応するため財務相・中央銀行総裁会議がスタート、2008年のリーマン・ショック後には首脳会議も開かれるようになった。首脳会議では一貫して「反保護主義」を掲げ続けてきた。1920年代の世界恐慌からブロック化、そして世界大戦へとつながったことを教訓に、自国産業を守るための関税引き上げ競争という負の連鎖を防ぎ、世界経済の安定的な成長を図ろうという狙いだ。保護主義阻止は、G20の本来の使命と言える。
5月には先進7か国首脳会議(G7サミット、イタリア)もあり、各国それぞれの思惑を秘めた神経戦が続く。