「やはり地元に愛着があるんでしょうね」
河野さんは高校を卒業後、20年ほど陸前高田市を離れたが、30代で戻ってきた。震災で家を失い、大船渡市で避難生活を送った際に一時は本格的な移転を考えたが、最後は地元を選んだ。語り部の活動も、故郷を思う気持ちから始めた。「普段は無意識ですが、やはり地元に愛着があるんでしょうね」。
震災の経験はつらいが、多くの人に伝える意義がある。街の将来に不安がないわけではない。だが真剣な表情になりがちなツアーの途中で、地元で長く行われている祭り「けんか七夕」の話になると、河野さんの表情がパっと明るくなった。津波で山車が流されながらも、祭りの伝統を絶やすことなく続けている人たち、子どものころに見た「けんか」の勇壮さ。河野さんにとって、ふるさとの誇りだ。
「祭りの話になると、つい話が長くなっちゃって」
少し照れ臭そうに、笑った。