東京・世田谷の幼稚園で、滋賀県内では工場など4事業所で2017年3月中旬、それぞれ76人と77人が、カレーを食べて下痢やおう吐など食中毒症状を訴えた。しっかり煮込んで、スパイスも効いて、食中毒とは縁遠いイメージのカレーだが、実は油断をすると、その原因菌が発生しやすい。
とくに、おいしくなるとされる「一晩ねかせたカレー」には注意が必要という。
ウエルシュ菌食中毒3月に2件発生
東京のケースでは76人のうち29人から、滋賀のケースでは77人のうち22人から、食中毒を引き起こすウエルシュ菌が検出された。
17年に入ってからは2月にも、福島県内のスキーリゾートでカレーライスを食べた55人が下痢などの症状を訴え、発症者からウエルシュ菌が検出された。
ウエルシュ菌は、ヒトや動物の腸管内や土壌など自然界に広く分布している。東京都福祉保健局の「東京都の食品安全情報サイト・食品衛生の窓」によると「この細菌は熱に強い芽胞を作るため、高温でも死滅せず生き残る。したがって、食品を大釜などで大量に加熱調理すると、他の細菌が死滅してもウエルシュ菌の耐熱性の芽胞は生き残る」という。
カレーやシチューなど一度に大量の調理した給食などで発生することから「給食病」の異名もあるほどだ。
肉類や魚介類、野菜などカレーの材料となる食品には、常在菌であるウエルシュ菌がもとから付着している。加熱され煮込まれる過程でウエルシュ菌は鍋のなかで生き残るが、調理直後の最初の食事の段階では菌の数はさほど多くはない。
温度が下がる鍋のなかで増殖
問題はその後だ。鍋に残ったカレーはしだいに温度が下がり、それにつれ、ウエルシュ菌は、いわば身を守る殻である芽胞から出て活動を再開。酸素を嫌う「嫌気性」のウエルシュ菌にとって、フタで閉じられた鍋のなかは好ましい状態になるため、発育に適した温度まで下がると発芽して急速に増殖を始めるという。
「一晩ねかせたカレー」は、江崎グリコのウエブサイト内にある「カレーのおはなし」によれば、具材のもつ旨み成分や甘み成分がソースに溶けだしてコクが増すなどしておいしくなる。その一方で、ウエルシュ菌増殖のプロセスも経ているわけで、危険性も高まっていることになる。
「東京都の食品安全情報サイト・食品衛生の窓」は、ウエルシュ菌による食中毒予防のポイントとして(1)前日調理は避け、加熱調理したものはなるべく早く食べること(2)一度に大量の食品を加熱調理したときはウエルシュ菌の発育しやすい温度を長く保たないように注意すること(3)保管するときは小分けしてから急激に冷却すること――などを挙げている。
ウエルシュ菌による食中毒は厚生労働省の統計によると、06年~15年まででは、年間19~35件発生。11年にはこの10年間で最多の2784人が発症した。