【きょうの健康】(Eテレ)2017年3月16日放送
「生活改善で不眠解消」
日本の成人の3人に1人が、寝付けない、眠りが浅いなど、不眠症状があるといわれている。これが長く続き、生活に支障をきたすようになると、不眠症と診断される。
治療には睡眠薬の服用が有効とされているが、薬だけでは症状が改善しない人も多い。薬の服用に加え、生活改善もあわせた治療法が今注目されている。
寝床に早く入りすぎるのもよくない
そもそも、適切な睡眠とはどんなものか。
国立精神・神経医療研究センターの三島和夫部長によると、過去の研究では、6~8時間の睡眠時間が目安となっている。しかし年齢や生活習慣で大きく個人差が出るので、長さにこだわらず、日中眠くて困らない程度に眠れればよい。
時間の長さにこだわるとプレッシャーになり、かえって睡眠の質が低下する。5時間しか寝なくても、日常生活で困らなければ気にする必要はない。
寝床に入るタイミングは、体の眠る準備が整ってからだ。早く入りすぎるのもよくない。
年齢別に実際に眠れる時間を調査した研究では、10歳では9時間近く、20歳では7時間半ほど、30歳では7時間近く、40歳では6時間半ほど...と、年齢が上がるにつれて短くなっている。
一方、60歳以降は睡眠時間が短いのに、寝床にいる時間は長くなっている。寝床でリラックスして過ごせる人はそれでもよいが、不眠で悩んでいる人は、寝床に入る時刻と寝付く時刻のギャップが大きくなればなるほど、緊張で睡眠の質が低下する。
眠る準備が整う時刻は体内時計で決められていて、その時刻になってから寝ないとよい眠りにはならない。
体内時計の働きをつかさどるのは脳の視交叉上核(しこうさじょうかく)という部分で、夜は体から熱を放散して特に脳を冷やし、メラトニンというホルモンを分泌して入眠をうながす。朝方になると覚醒作用を持つ副腎皮質ホルモンの分泌が始まって体温が高くなり、目が覚める。体内時計と睡眠のリズムが合っていないのが不眠の原因の一つになる。
起きる時刻は、休日も含めて毎日ほぼ同じにするのが重要だ。朝の光は体内時計を調整する効果があり、同じ時刻に起きていると寝付きにかかる時間も短く安定してくる。
眠るコンディションを整える「筋しかん法」
最近の不眠治療では、「認知行動療法」を取り入れた内容が増えてきている。睡眠薬と同等の不眠症状の改善効果が得られ、すでに服薬している人も量が減らせたり、薬をやめやすくなったりする。現在日本では保険適用外だが、適用が検討されていて、今後ますます普及していくと考えられている。
自宅でできる認知行動療法が「睡眠日誌」だ。
寝床に入った時刻、眠りについた時刻、目が覚めた時刻、寝床から出た時刻、夜中に起きていた時間、昼寝をした時間の記録を毎日取る。1~2週間記録してグラフにすると、睡眠の問題点がわかる。
ある患者は、毎日20時から21時に寝床に入っていたが、寝付く時刻は23時頃で、途中で目覚めてなかなか眠れない時間も多く、起床時刻が不規則になっていた。
寝付きが悪いので、寝床に入る時刻を遅くしたほか、寝床に向かう直前に睡眠薬を服用するようにすると、寝付きの時間が短くなり、毎日大体同じ時刻に眠りに入るようになった。
リラックス効果があり、眠りやすいコンディションを作る「筋しかん法」を寝る前に行うのもよい。
背もたれのあるイスに浅く腰かけ、足の裏をぴったり床に付ける。足は肩幅に開く。イスがなければベッドに座ってもOKだ。
まず両手をギュッと握って5秒間数え、一気に力を抜く。20秒ほど休み、今度は肩に力を入れていからせ手を握り5秒間、また一気に力を抜き、20秒休む。この動作を3セット繰り返す。パジャマに着替えてから寝室で行うとより効果的だ。
寝付きをよくするために寝酒をたしなむ人も多そうだが、実は逆効果だ。毎日寝酒しているとだんだん効果が弱まり酒量が増え、深い眠りの時間が減ってしまう。夜の飲酒は「寝るため」と考えないほうがよい。