乳がんと闘っている女性にとって、大豆食品を食べてよいかは悩みのタネだった。健康食品でありながら、乳がんを再発させてしまうのではないかという心配があったからだ。
しかし、この不安から解放される時がきたようだ。「再発リスクが減り、長生きできますよ。安心して食べて」という嬉しい研究が発表されたのだ。
女性ホルモンに似た働きが不安の元だったが
大豆食品に乳がんの予防効果があることは、いくつかの研究で明らかにされている。たとえば、2003年に国立がん研究センターが発表した研究によると、大豆食品(大豆・豆腐・油揚げ・納豆・みそ汁)を毎日食べている人は、ほとんど食べない人に比べ、乳がんの発症率が19%低かった。みそ汁で比較すると、1日3杯以上飲む人は1日1杯未満の人に比べ、40%も低かった。
しかし、乳がんにかかった患者になると事情が違ってくる。乳がんの発症には女性ホルモンのエストロゲンが関わっていると指摘されている。特に、細胞にエストロゲン受容体(レセプター)があるタイプの乳がんの人は、受容体ががん細胞と結びついて乳がんを再発しやすい。このため、手術後に抗エストロゲン剤を投与する治療が行なわれる。そして、大豆の健康成分である大豆イソフラボンは、エストロゲンと似た働きをするため、「植物性女性ホルモン」と呼ばれているほどだ。このため、乳がん患者に大豆製品を食べることを勧めてもよいか、議論が続いてきた。
今回、研究を発表したのは米タフツ大学とカナダ・トロント大学などの合同チームだ。がん専門誌「Cancer」(電子版)の2017年3月6日号に発表した。
論文によると、研究チームは、乳がんと診断された米国人とカナダ人の女性6235人(平均年齢52歳)を対象に、大豆食品の摂取量と死亡率の関係を約9年間追跡調査した。患者たちには食生活の詳しいアンケートを行ない、1日あたりの大豆食品の摂取量を割り出した。調査期間中に1224人(19.6%)が死亡した。その結果、次のことがわかった。
(1)大豆食品の摂取量が多い人ほど、全死亡率が低く、乳がんと診断されてからの生存期間が長い。つまり長生きするのだ。
(2)大豆による恩恵が特に強かったのは、エストロゲン受容体が陰性のタイプの人で、死亡リスクが50%も減った。また、治療に抗エストロゲン剤を投与されたことがない人も32%低くなった。
(3)一方、エストロゲン受容体が陽性の人では、大豆食品の摂取量と死亡率との間では、特に関連がみられなかった。つまり、大豆を食べたことによる恩恵があったわけではないが、大豆を多く食べたからといって、死亡率が増えるなどの不利益もなかった。
サプリではなく食べ物からイソフラボンをとろう
こうした結果から、論文の付随執筆者である米エモリー大学がん研究所のオマー・クック所長は、論文の中でこうコメントしている。
「今回の新しい研究成果によって、これまでの議論は収束するはずです。乳がんの女性は、安心して大豆食品を食べてよいのです。私たちは、大豆イソフラボンががん細胞と結合することにより、エストロゲンの影響を防いでいるのではないかと推測しています」
ちなみに、今回の研究の前に発表されている日本乳がん学会の「患者さんのための乳がん診療ガイドライン」では、「大豆食品の摂取と乳がん再発リスクについて教えてください Q&A」の中で、こう回答している(要約抜粋)。
「大豆イソフラボンの摂取で乳がん再発リスクが低くなる可能性があります。現時点ではこれに関する研究は非常に少ないのですが、これまでの研究では一貫して、大豆イソフラボンの摂取が多い患者さんは、少ない患者さんに比較して乳がん再発リスクが低かったことが報告されています」
「また、大豆イソフラボンを多く摂取した患者さんに有害な出来事はなかったことも報告されています。しかし、再発リスクを下げる目的でイソフラボンをサプリメントの形で多量に摂取することは、効果と安全性が証明されていないので勧められません。通常の大豆食品から摂取するように心がけましょう」