日銀が2016年9月に「長短金利操作」と呼ぶ新たな金融政策を導入して半年。この間に追加金融緩和などの政策変更はなく、「無風」(現状維持)が続いている。2%物価目標を掲げるもとで物価は低迷しているが、追加緩和の手段が限られ、手を打てないのが実情との見方もある。黒田東彦総裁が13年3月に就任して丸4年、任期は残り1年だ。4年前には会見場に記者があふれたが、今や空席も目立つ。市場の関心は「次期総裁」に徐々に移りつつある。
「金融政策の効果が低下したなどとは考えていない」。17年3月16日の金融政策決定会合後の記者会見で、4年前の就任当初と比べた現在の金融政策について問われた黒田総裁はこう強調した。しかし、「異次元緩和」を導入した就任時と状況は大きく異なる。
日米の金利差が生み出す効果
「黒田日銀」の当初は、円安・株高を引き寄せて輸出企業を中心に日本企業の業績が向上した。ここまでは間違いないし、功績と言ってもいい。これを受けて賃金が上昇、2%物価目標も達成――という道筋がつく、という説明も以前はそれなりに説得力があった。しかし、原油安や中国経済の減速という想定外の現象があったにせよ、経済の好循環サイクルは起きず、物価はむしろ低迷を続け、マイナスに沈んだ。原油など資源価格の上昇や外国為替市場の円安傾向を受けて2017年1月、1年1か月ぶりにようやく前年同月比でプラス0.1%と物価が上昇に転じた程度だ。
かたや米国は量的金融緩和を卒業し、今では利上げを着実に進め、「正常化」に邁進している。この日米の金融政策の違いが日米の金利差を生み、円安傾向を生んでいることが、日銀にとっては心地よい。政府や市場から追加緩和を迫られることもなく、現状維持を続けるだけで輸出企業の業績が向上する円安局面となるからだ。
こうした中、黒田日銀の金融政策を支えてきた内田真一企画局長が3月3日、名古屋支店長に転じた。内田氏は企画局勤務が長く、将来を有望視されたエリート。白川方明・前総裁時代の2012年5月に40代の若さで金融政策を司る企画局長に抜てきされ、2013年3月の黒田氏の総裁就任後は、異次元緩和やマイナス金利政策、長短金利操作の導入を推し進めた。やはり企画局のエースだった先輩の雨宮正佳理事とともに黒田総裁の知恵袋として活躍した。内田局長の在任は5年近くと異例の長さではあったが、黒田日銀の政策が転換するシグナルともみられている。内田氏の後任は加藤毅氏。加藤氏は白川総裁時代に企画局で政策立案を担当する政策企画課長を務めていた。いずれ内田氏の後任になるとみられており、順当な人事ではある。