女子高生が叫ぶ「現実を受け入れたらどうなの!」
赤いトランプ帽を被り、胸にトランプ氏の顔のバッジを2つ付けた若い女性は、「TRUMP MAKE AMERICA GREAT AGAIN!(トランプ アメリカを再び偉大に)」と書かれたプラカードを掲げ、「He IS your president! Just get over it!(彼があなたの大統領よ! いい加減、現実を受け入れたらどうなの!)」と叫ぶ。
あとで話を聞くと、彼女は16歳の高校生だった。
彼女たちに食ってかかってきた反トランプ派の男性に向かって、「どうして、そんなふうに罵(ののし)るんですか。普通に会話しようとしているのに」とその女子高生が詰め寄る。
「罵るだって? ポリティカリー・コレクトじゃないのは、君たちのほうだろ!」と男性が反撃する。
若い白人女性も言い寄り、高校生と激しい口論になる。
「メキシコとの国境に壁を作るなんて、金の無駄! ドラッグ問題を解決したいなら、メンタルヘルスに金を使うべきでしょ!」
「マドンナなんか、ホワイトハウスを爆破したい、って言ったじゃないか。メンタルヘルスが必要なのは、あいつだろ」とトランプ派の男性が加勢する。
「メキシコや中国で低賃金で作れるものを、アメリカで高賃金で作って、ビジネスが成り立つと思ってるわけ?!」
「それが問題なのはわかっています。だから、国内の労働者が守られる経済改革が必要なんです」
「あなたは洗脳されてるのよ!」
「移民がもらってるような低賃金で、アメリカ人は働きたくないんだよ」と反トランプ派が口を挟む。
「洗脳なんかされていません! あなたはバーニー・サンダース(2016年大統領選挙予備選でクリントン氏に敗れた)が好きですか」
「もちろんよ」
「私は16歳で、高校生なんですが、彼が言うように公立大学の授業料を無償にしたら、どうなりますか」
「あなた、まだ16歳なの? すごいわね。もっとずっと年上かと思ったわよ」
「そうなんですよ。で、サンダースが唱えるような社会になったら、税率が50%とかになるんですよ!」
「金持ちにもっと税金を払わせなさいよ! 福祉を削減するなんて、あり得ないわ!」
「働けるのに、社会福祉を悪用している人たちも、たくさんいます」
「あなた、現実は厳しいのよ! 実際に職探ししていなきゃ、福祉の世話になんてなれないのよ!」
ふたりの口論は延々と続き、その間にもあちこちで両者の激しい言い合いが行われていた。(後編に続く)
++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計35万部を超え、2016年12月にシリーズ第7弾となる「ニューヨークの魔法の約束」を出版した。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。