三越伊勢丹ホールディングス(HD)の大西洋社長が辞任に追い込まれた。百貨店業界では熱心に改革に取り組む社長として知られていたが、社内ではトップダウンに対する不満が高まっていたようだ。ただ、人口減少などで構造的な不況が続く百貨店の改革は待ったなし。新社長に就く杉江俊彦専務執行役員の船出は多難だ。
「社内対話やコミュニケーションが欠けていた」。2017年4月1日付で社長に昇格する杉江氏は3月13日、東京都内で就任記者会見を開き、大西体制の問題点をこう指摘した。
外国人の「爆買い」が一服し...
大西氏は日本百貨店協会長も務めており、まさに「業界の顔」。今年1月のマスコミのインタビューでは、百貨店の従業員の待遇を改善するため、正月三が日の休業検討を表明するなど、働き方改革に意欲を見せていた。このころ、大西氏の中では社長辞任はまだ現実味を帯びていなかったようだ。
大西氏は、伊勢丹の代名詞ともなった「メンズ館」を成功させるなど、婦人服が主流の百貨店の中で新事業に挑戦してきたことが評価され、社長に抜てきされた経緯がある。2012年の社長就任後も「構造改革」を掲げ、ウエディングや飲食事業など新事業への参入を進めてきた。
就任後しばらくは、円安を背景にした訪日外国人の急増で百貨店は「特需」に沸き、三越伊勢丹をはじめ各百貨店の業績は潤った。ところが、2016年初めに為替相場が円高に転じると、訪日外国人の「爆買い」は一服。最も打撃を受けたのは、売上高に占める百貨店事業の依存度が高い三越伊勢丹だった。
業績悪化が鮮明になるにつれ、社内では大西批判が強まっていく。ある社員は「成果がまったく出ない新規事業に人員をさくより、本業強化が先だ」と大西氏の方針に不満を隠さなかった。大西氏は部下への指導も厳しく、成果が出ないときつく当たることがあったといい、「業績が好調ならいいが、数字が悪くなってくると、現場から不満や文句が一斉に吹き出した」(業界関係者)という。