理化学研究所や先端医療センター病院などの共同研究グループは2017年3月16日、目の難病である「滲出型加齢黄斑変性」を患う70代女性に、自己由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った網膜の細胞を移植した臨床研究について、手術実施から2年後も経過は良好で安全性が確認できたと発表した。
研究成果は米医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」(電子版)の2017年3月16日号に掲載された。研究グループでは今後、期間短縮とコスト大幅減が可能になる、他人の細胞から誘導したiPS細胞のストックを用いての臨床研究へと発展が期待できるとしている。
今後は他人由来のストックを用いた研究へ
理化学研究所の同日付発表資料によると、臨床研究では対象患者2人がエントリーされ、自己iPS細胞由来網膜色素上皮細胞シートを作製。2014年9月にそのうちの1人(女性)に移植を実施した。
1年後の評価では、腫瘍形成、拒絶などはなく、新生血管の再発もみられなかった。視力は移植手術前のレベルを維持しており安全性試験としての経過は良好でさらに、その後1年半経過した現在も、腫瘍形成や拒絶反応はみられていないという。
共同研究グループは「今回の結果より、iPS細胞由来網膜色素上皮細胞を用いた細胞治療が安全に施行できることが支持される」としている。2例目のもう1人(男性)については、臨床所見が現行治療で比較的安定していたことなどから移植手術は延期され、法改正により臨床研究は一旦エントリーを終了している。
加齢黄斑変性は、欧米では成人の失明原因の第1位、日本でも第4位の病気。
50歳以上の人の約1%に症状がみられるとされ、高齢になるほど多くなる。