ブラジャーを長く着けると乳がんになるってホント?

建築予定地やご希望の地域の工務店へ一括無料資料請求

   女性の乳房に関する多くの都市伝説の中でも、最も怖いのは「ブラジャーを長時間着けていると乳がんになりやすい」というものだろう。

   ノーブラの人に比べ、夜寝る時も含めて24時間着けると、乳がんになるリスクが何と125倍にもなるという説が広がっている。本当だと怖すぎるが......。

  • 「ブラジャーの着け方こそが重要なのだよ」(イラスト・サカタルージ)
    「ブラジャーの着け方こそが重要なのだよ」(イラスト・サカタルージ)
  • 「ブラジャーの着け方こそが重要なのだよ」(イラスト・サカタルージ)

ブラを着けない先住民には乳がん患者がいない

   この都市伝説は出所がはっきりしている、多くのメディアが報道し一気に広まるきっかけになった本がある。1995年に米国のシドニー・シンガー&ソマ・グリスメイジャー夫妻が共同執筆した『Dressed to Kill:The Link Between Breast Cancer and Bras』だ。ただし、断っておくと、彼らは医師でもがんの研究者でもない。サイエンスライターだ。本も論文ではなく、ノンフィクションとして発表された。しかし、当時の英文書評やワシントンポスト紙2014年10月26日付記事などのメディア報道を読むと、衝撃的な内容だ。かいつまんで紹介しよう。

   (1)乳がんは、近代になり女性がブラジャーを着用する文化を発達させた先進国に多くみられるようになった。たとえば、ブラジャーを着けるようになったニュージーランドの先住民(マオリ族)は欧州と同じくらい発症率が高いが、今でもブラジャーを着けないオーストラリアの先住民(アボリジニ)の女性は、ほとんど乳がんにかからない(発症率は男性並み)。

   (2)2人は、ブラジャーがリンパ系を締め付け、発がん性のある毒素が乳房内に滞留するため、乳がんを発症させるという仮説をたてた。リンパ系は体内から老廃物や毒素を取り除く働きをする。多くの毒素は体脂肪内に蓄積するため、大部分が脂肪組織の乳房は毒素がたまりやすい。ブラジャーによってリンパ系の毒素排除機能が妨げられ、乳房にたまった毒素が正常な細胞をがん細胞へ変えてしまう。

   (3)2人は、実際に米国の5大都市を訪問、乳がん患者2056人と乳がんではない2674人の合計4730人の女性からアンケートをとった。そして、ブラジャーの使用状況を聞き、着用時間と乳がん発症率の関係を調べた。すると、いつもノーブラの人に比べ、1日12時間ブラを着ける人は発症率が約25倍、24時間着ける人は約125倍に上昇した。

   (4)2人は、医療界は自分たちの主張が正しいか間違っているか、科学的に評価するためにさらなる研究を行なうべきだと訴えた。

仮説「乳房の毒素の排泄をブラが妨げる」は間違い

   内容があまりに衝撃的だったことと、2人が研究者ではなく、調査方法も正規の研究手法を採っていないため、米国立がん研究所や米国がん学会など多くの学術団体がただちに「ブラジャーの着用と乳がん発症との関連は、科学的な証拠が示されていない。先住民と先進国女性の乳がん発症率の差は、食生活などの要因も考慮すべきだ」などと否定した。しかし、本の内容が「都市伝説」として世界中に広まっているのは確かだ。日本でも2011年5月15日放送のフジテレビ「ホンマでっか!? TV」の「1日12時間ブラジャー着用すると乳がんの確率25倍ってホント?」などで取り上げられた。

   こんな中、米フレッドハッチンソンがん研究センターのチームが、ブラジャーと乳がんの関連を完全に否定する本格的な研究結果を米医学誌「Cancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention」(電子版)の2014年9月5日号に報告した。

   同誌の論文要旨によると、研究チームは55~74歳の閉経後の女性1513人(乳がん患者1044人、乳がんなし469人)を対象に、特にブラジャーと乳がんの発症の関連について、次の項目を入念に調査した。閉経後の女性を選んだのは、最も乳がんになりやすい年代だからだ。また、乳がん患者も、多くの乳がんの中でも最も一般的な2つのタイプを選んだ。

(1)1日にブラジャーを着用する時間
(2)1週間にブラジャーを着用する日数
(3)ブラジャーのアンダーワイヤーの有無
(4)ブラジャーのカップサイズ
(5)アンダーバストサイズ
(6)ブラジャーを着け始めた年齢
(7)人生でのブラジャーの着用パターンの変化

   その結果、ブラジャー着用のすべての項目で乳がんの発症との関連はみられなかった。研究チームのリュー・チェン教授は、論文要旨の中でこう語っている。

「開発途上国と先進国との間で、乳がんの発症率が違うことの理由の1つに、ブラジャーの着用パターンの違いがあると心配されています。どのようにブラジャーを着たらいいか、女性にとっては深刻な問題です。乳房の中の老廃物の排泄がブラジャーによって妨げられるという仮説があることは確かです。そこで我々は、ブラジャーが乳がんを引き起こすかもしれないあらゆる可能性を精査しました。その結果、関連がないことを証明しました。多くの女性に安心感を提供できる研究だと思っています」
姉妹サイト