わが子の新入学・進級シーズンの到来とともにママを憂うつにさせるPTAの役員選び。PTAと断固闘って理不尽な役員の押し付けを撤回させたママの奮闘を取材したJ-CASTヘルスケア2017年2月24日付記事「たったひとりでPTAに立ち向かったママ 『私は壮絶バトルで役員免除を勝ち取った』」は大きな反響を呼んだ。
その記事の下の「ワンクリック投票 PTA役員選びどう思いますか」では、「PTAなどなくしてしまえ」が約65%に達する。「PTAはいらない」という人が多いのだ。実際に、PTAをなくした小学校がある。その16年後、その学校はどうなっただろうか。
「PTAがないがゆえに、親と教師は大人として向き合える」
この学校は東京の西東京市芝久保町にある市立けやき小学校だ。2001年に2つの小学校が統合して創立された。その時、それぞれの小学校のPTAの方針が大きく食い違って新しいPTAの運営方法がまとまらず、結局、保護者たちに強く望む人もいなかったためPTAをなくしてしまった。当時の経緯を読売新聞「PTA再考(12) 『作らない』も選択肢」(2008年4月2日)ではこう報道している(要約抜粋)。
≪けやき小学校校長だった児玉健二さんは、統合前の小学校の教頭時代、嫌々役員を引き受ける保護者を見ており、PTA設置を強く働きかけなかった。その後も、保護者から設置の要望が強く出ることはない。
保護者の支援が必要な時は担任が学級便りなどで呼びかける。月1回の全授業公開で保護者同士の交流もある。「PTAがなくても学校運営に支障はない。保護者に何度も足を運ばせる手間をかけなくてよかった」と児玉さん≫
PTAがなくなったのはいいことづくめだったようだ。元校長・児玉健二さんは、ノンフィクション作家・川端裕人氏が共同通信を通して多くの地方紙に連載した「PTA進化論(9)」(2009年5月~)でもこう語っている(要約抜粋)。
≪......PTAが消えて、何か問題はあったのか。「特に不都合はありませんでした」と児玉氏。「保護者に協力をお願いしたい時は担任を通じて呼び掛ける。本当に必要なことなら保護者は動いてくれるものです」。なるほど、そりゃそうだ。目からうろこが落ちる回答だった。「役員決めの壮絶なストレスから解放される」のは巨大なメリット。児玉氏の回答は楽観的なものだった。「無理に束ねると、教員も保護者も自立できない。PTAがないがゆえに、それぞれ立場の違う大人として向き合える、ということもあります」......≫
「PTA的組織」が不死鳥のように復活していた!
さて、PTAがなくなってから16年、「けやき小学校」はどうなったのだろうか。J-CASTヘルスケアは、同小の高橋亨校長を取材した。
――PTAがなくなってだいぶ経ちますが、保護者との連絡など学校運営はどうやっているのですか? 親たちはPTAの役員負担がなくなってよくなったと思いますが、何か不都合なことはないのですか。
高橋校長「いや、実は、やっぱり親たちの連絡組織が必要だということになり、2010年に『保護者の会』という組織ができたのです。本校は確かにPTAがありませんが、保護者の会には会長、副会長、会計、書記、庶務などの役員会があり、そのほかに運営委員会、学級委員会、地区委員会があります」
――はあ~、PTAはなくなったはずではないのですか。保護者の会とPTAとはどう違うのですか。
「PTAはP(親)とT(教師)の組織ですから普通は教師が事務局に入りますが、教師はまったく参加していません。親だけの組織です。ですから、学校から独立した自主的な組織です。それに上部団体の西東京市PTA連絡協議会にも参加しておりません」
――しかし、実質的にPTAと同じものなのでしょう。
「私は昨年(2016年)4月にここへ赴任する前、多くの学校でPTAを見てきました。この学校にはPTAがないと聞いてきましたが、率直に言って、保護者の会は他のPTAと大きな違いはないなと感じます」
――読売新聞の記事などを見ますと、PTAがなくなり、まるで「教育のユートピア」が訪れたような「美談」に描かれていますが、どうしてこうなっちゃったのですか。
「読売新聞の記事は、あの時点では正確だったと思います。しかし、その後、いろいろと不便な状況が出てきて、むしろ、保護者の方から保護者の会を作りたいと言ってこられたと聞いています。学校側ではありません」
下手に中途半端なPTAよりはスゴイ
――どういうことですか。経緯を教えてください。
「PTAがいったんなくなった後も、クラスごとの学級委員や地区委員は選んでいました。本校は児童が集団登校していますから、地区委員は児童の安全のために、付き添ったり、信号を渡る時に誘導したりします。また、学級委員や地区委員は保護者に連絡をするために印刷物を作ったりしなくてはなりません。しかし、PTAのような組織がないと、おカネなどの管理の問題ができてきました。結局、『親の組織の事務局がないと不便だよね』ということになったと聞いております」
――PTAをなくした後に、PTA的なものは必要だと気づいたわけですか。
「保護者は子どものために一生懸命やっています。そのためには親をまとめる組織が必要だったということだと思います。ただ、保護者の会は自分たちで立ち上げた組織ですから、他のPTAに比べ非常に自主的だと感心しています。学校側から作らされた組織ではないという意識が強いです。教師は事務局に参加していませんが、下手に中途半端なPTAよりスゴイです」
――どういうことでしょうか。
「保護者の会は、自分たちの考えで物事を決め、その後に『こう決めましたが、学校側はご迷惑ではありませんか』と確認をしてくれます。たとえば、保護者が自分たちで茶話会を計画したりします。私と副校長はあくまで相談役の立場です」
――たいしたものですね。ところで、親が一番悩むのはPTA役員の押し付け問題ですが、その点は保護者の会にも同じ問題があるのでしょうか。やはり、みんなやらざるを得ないのですか。
やりたい人が少なく、やっぱり役員選びはくじ引き
「自分からやりたい人が多くなく、くじ引きで決めているのが現実です。ただ、いろいろルールがあり、一度役員をやると10年間は免除されます。また、妊婦さんも免除されます。それと、特別な事情がある人は会長と相談できます。また、前年度のうちに1~5年生の親で役員を決めてしまいます。だから、新1年生が役員をやることはありません。過去に役員に選ばれながら参加しなかった人がいたと聞いていますから、他のPTAであるような問題はあるようです。今年度は、くじを引いた後にノーという人は出ませんでした。その前に役員の決め方については周知徹底されています。ああ、それと保護者の会の会費は1年間で800円です。これはかなり安いと思いますよ」
年間数千円が珍しくない小学校のPTA会費相場から考えると、確かに安い。