アメリカ経済「混乱しかねない」 トランプvs「FRB」の神経戦

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   米国のトランプ政権と中央銀行である米連邦準備理事会(FRB)の距離感が微妙だ。足元の景気の好調を背景に、2017年3月14~15日の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げは確実視する声が多数だが、経済運営全般では、今後の金融政策の判断に影響する景気刺激の財政政策の詳細や為替政策のスタンスが曖昧なうえ、トランプ大統領の貿易政策の不確実性が景気に与える影響が計りかねるからだ。金融機関への規制でも意見に隔たりがあり、政権と中央銀行の関係は米国経済の不安材料になっている。

   米国景気は堅調だ。米労働省が3月10日に発表した2月の雇用統計(速報値、季節調整済み)は、景気を敏感に反映する非農業部門の雇用者数が前月比23万5000人増と、市場予測(19万人増)を大きく上回った。失業率も4.7%と前月比0.1ポイント改善した。イエレンFRB議長が3月3日の講演で「今月の会合で雇用情勢と物価上昇率が想定通りか判断し、(その通りなら)一段の政策金利の調整が適切になるだろう」と言明していたことから、月内の利上げを決断するとの見方が一段と強まっている。

  • トランプ政権とFRBの関係は米国経済の不安材料になっている(C)FOMOUS
    トランプ政権とFRBの関係は米国経済の不安材料になっている(C)FOMOUS
  • トランプ政権とFRBの関係は米国経済の不安材料になっている(C)FOMOUS

トランプ路線に距離を置くイエレン議長

   ただし、そうなったとしても、その先の不透明感は消えない。FRBは「金融政策の正常化」として慎重に、かつ着実に利上げを進める考えで、2016年12月、17年の利上げペースの見通しを年2回から3回に引き上げたが、3月を含め年内残り7回のFOMCでどのように利上げしていくか、現時点で占うのは難しい。1月31日~2月1日開催のFOMC議事要旨でも、メンバーの多くは、政府による財政その他の政策の変更内容、変更時期、規模や、それらの効果に関する不確実性を強調していて、経済見通しも、上振れの見方が多数とはいえ、景気の下押しリスクを懸念する声も根強いとされている。

   具体的なマクロ経済政策は、(1)1兆ドル(約113兆円)規模のインフラ投資、(2)30年ぶりの大規模な税制改革の2本柱で、税制では減税(法人税35%→15%、個人所得税の最高税率39.6%→33%)と国境税新設などだ。しかし、これらの内容の具体化は、与党共和党との調整も簡単ではなく、関係法の成立は「夏ごろまでかかりそう」(エコノミスト)。

   通商政策の保護主義的な姿勢は、短期的には米国内雇用を増やすといった効果を期待する向きもあるが、結局は世界全体の貿易にマイナスに働き、米国自身に跳ね返って輸出減などを招く恐れが指摘される。

   イエレン議長は2月14、15日の米議会証言で、「財政収支が持続的な方向に向かうことを期待する」と、財政赤字拡大にクギを刺すとともに、メキシコからの輸入品への高関税が米国にも悪影響を及ぼすことも指摘するなど、トランプ路線に距離を置く。

FRBが利上げに踏み切った結果、ドル高に振れるようなら...

   政権とFRBが、より見解を異にするのが金融機関への姿勢だ。オバマ前政権は大手金融機関に高い自己資本比率を求めるなど、金融危機の再発を防ぐため「金融規制強化法(ドッド・フランク法)」を制定したが、トランプ大統領は2月、これを見直す大統領令に署名した。厳しい規制を課す大手金融機関の範囲を狭めることなどを目指すとみられているが、イエレン議長は「十分に規制された金融市場は、金融の安定に有益な役割を果たす」などと述べている。

   政権の為替政策と、為替の先行きも不透明だ。経済政策が全体として反映する一方、政権のスタンスにも左右されるのが為替市場だ。トランプ大統領が人民元やユーロ、円の「安値誘導」批判を口にして世界の市場を困惑させたが、これは、イエレン議長もメンバーの先進7か国(G7)や主要20か国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議の議論からは外れる「口先介入」だ。ムニューチン財務長官は「長期的にはドル高は好ましい」と述べ、大統領の発言の修正に動いているようにみえる。しかし、FRBが利上げに踏み切った結果、ドル高に振れるようなら、政権から「不規則発言」が飛び出すかもしれない。

   イエレン議長の任期は2018年2月までで、トランプ大統領はすでに「再任せず」を明言している。その後任人事をにらみながら、政権とFRBが神経戦を展開しているようにも見える。「政権の政策の見通しが立てにくい中、両者の対立で金融政策が後手に回って経済が混乱しかねない」(全国紙経済部デスク)との懸念は消えない。

   今週は、先に紹介した利上げが予想されるFOMC、ムニューチン長官の国際デビューとなるG20財務相・中央銀行総裁会議(17~18日、ドイツ)と、重要イベントが続く。FRB、トランプ政権がどのようなメッセージを発するか、目が離せない。

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