中国などから日本に持ち込もうとして、国内の空港で没収されたアヒルやニワトリの生肉から鳥インフルエンザウイルスが検出された――。2017年3月13日付の朝日新聞デジタルが、こう報じた。
現在、鳥インフルエンザが発生している国からは、アヒルやニワトリなどの肉の輸入を一時停止している。没収された鶏肉は、得体が知れない。農林水産省動物検疫所に協力して調査にあたった、北海道大学大学院・獣医学研究科微生物学教室の迫田義弘教授にJ-CASTヘルスケアが詳しく聞いた。
ウイルス付着した鶏肉を食べたらどうなる
朝日新聞によると、2015年6月から2017年2月までに羽田空港など全国9か所の空港や港で渡航者の荷物から没収されたニワトリやアヒルの肉や卵など228検体を、農林水産省動物検疫所と北海道大学が調査した。
すると、高病原性(感染を引き起こす可能性が高い)鳥インフルエンザのH5N1亜型とH5N6亜型のウイルスが3点、低病原性(感染を引き起こす可能性が低い)のウイルスも9点検出された。いずれも、中国で流行しているものと遺伝子が一致したという。日本に持ち込もうとした渡航者は中国や台湾、香港、ベトナムからとされている。
「スーツケースの中に、毛をむしっただけのアヒルが並んでいるような状態で、驚きました」
迫田教授は、調査時の状況をJ-CASTヘルスケアの取材にこう明かした。発見される鶏肉や卵は少量で、販売を目的としているわけではなく、日本で暮らす知人と食べるためではないかと迫田教授は推測している。
加熱調理すればウイルスは死滅させられると考えられており、肉を食べて感染したという事例はこれまでに中国でも確認されていない。
ただ、迫田教授が懸念するのは持ち込み量だ。肉が発見されるのは検疫用の探知犬によるものや税関でトランクを開けた際など、偶然見つかる例が多い。探知犬が気付かないうちに肉がすり抜けている可能性もあり、今回の検出も氷山の一角の可能性があるのだ。
政府は2020年に訪日外国人観光客数を年間4000万人にするとの目標を掲げており、東京五輪も控えている。入国者数が増えれば、持ち込まれる肉の量もさらに増えるかもしれない。迫田教授は、こう警鐘を鳴らす。
「これまで鳥インフルエンザの国内侵入経路は渡り鳥などの野鳥だと考えられてきましたが、万一にも持ち込まれた肉が大量に捨てられるようなことがあれば、新たな感染源となる恐れもあります。養鶏場などはこれまで以上に感染予防に注意する必要があるでしょう」
日本の高い衛生レベルはもはや過去?
ところで、気になるのは人への感染リスクだ。迫田教授は説明する。
「実は2016年6月には日本で、現在中国で過去最高規模の人への感染が確認されているH7N9型というウイルスが、海外から持ち込まれた鶏肉から検出されています」
ただし、この型のウイルスが人から人へ感染した例は確認されておらず、中国でも鳥から人への感染が拡大している状態だ。仮に菌が人に付着するとしても、例えば生きているアヒルなどを捕まえて毛をむしったまま手を洗わない、といったかなり濃厚な接触がなければ保菌者となる可能性は低いという。
「とはいえ、我々はこれまで日本が感染した生肉などが持ち込まれることのない、衛生レベルの高い国であるという前提で、人や家禽(家畜の鳥類)への感染リスクを考えてきました。その前提が崩れつつある今、『人への感染リスクもゼロではない』と意識を変える必要があるかもしれません」
探知犬を増やすなどの物理的な施策ももちろんだが、迫田教授は「日本には厳しい検疫があり、肉を持ち込めない」という意識を渡航者に持ってもらうことも重要だと話す。
「動物検疫所がこのような事態を明らかにしたのも、そうした意識の表れではないでしょうか」