3月14日はホワイトデー。日本では、男性がバレンタインデーに女性からもらったプレゼントのお返しをする日だ。アメリカにはホワイトデーはなく、男性がバレンタインデーに女性にプレゼントする。花屋やケーキ屋は男性客でごった返している。
ニューヨーク・マンハッタンの中心、タイムズスクエアに、つい先日まで、赤とピンクの33本のポールが設置されていた。ポールには、2015年の人口調査にもとづいて、ニューヨーク市民のさまざまな出身国の名前と、その国からやってきた人数が書かれている。ちなみに、「JAPAN(日本)」は「19,378」。
「私たちもかつて移民だった」
このオブジェは、バレンタインをテーマにしたアート・コンテストで優勝した作品で、2010年にカナダからニューヨークに移り住んだ男性が代表を務める団体が制作した。真正面から見ると、全体がハート型になっている。バレンタインの相手だけでなく、移民に対する愛も込められている。
「We Were Strangers Once Too(私たちもかつて移民だった)」
これが、このオブジェのタイトル。オバマ前大統領が移民制度改革について国民に向けて演説した時の言葉だ。
2017年2月14日のバレンタインデーの夜、デラウエア州に住む50代のトニーとジーナは、さまざまな国籍や人種のカップルとともにタイムズスクエアに立っていた。妻に内緒で、夫が申し込んだ。24年前に結婚したふたりは、ここで司式者の前で、既婚夫婦が新たに絆を誓い合うセレモニーに参加したのだ。
「夫は毎年、サプライズで何かしてくれるの」とジーナ。
「でも、これ以上のサプライズは考えられないな。ここは世界の中心だからな」とトニーは笑う。
日中には、わざわざフランスから訪れたカップルや黒人同士の結婚式、サプライズのプロポーズなども行われた。
「抗議」オブジェの前で愛を誓うトランプ支持者
前述のハートのアートオブジェは、その制作団体の代表によると、「トランプ大統領の排他的な移民政策に対する抗議の意味」で作られたという。バレンタインデーの5日後にはタイムズスクエアで、同政策に反対する抗議集会「私もムスリム」が開かれた。
トニーとジーナはトランプ支持者だ。ジーナは、「このオブジェは客観的で素晴らしいが、制作者の意図は残念だ」と言う。
彼女は、「トランプに投票したと言うだけで、人種差別者呼ばわりされるのは、うんざりよ」と憤慨する。
「私はそんな人間ではないし、そんなふうに自分の子供を育てた覚えもないわ。トランプ派も反トランプ派も、それぞれの主張ばかりしていないで、対話できる場が必要だと思う」
バレンタインデーにはタイムズスクエアに、政治信条に関係なく、人々が集まってともに愛を誓い合った。
市の人口の4割近くが外国生まれというニューヨーク。その中心のタイムズスクエアには、全米、そして全世界から観光客が集まり、世界の交差点と呼ばれる。リベラル派が多いニューヨーカーたちが、保守派の人々と出会う最高の場所といえる。
タイムズスクエアの関係者は言う。「このオブジェをきっかけに、トランプ派と反トランプの間で対話や議論が生まれたら、素晴らしいだろう?」(敬称略。随時掲載)