福岡県大野城(おおのじょう)市で、土木作業員の41歳の男(いずれも自称)が軽犯罪法違反容疑で現行犯逮捕された。
逮捕の理由は、正当な理由なく「懐中電灯」を携帯していたことだった。懐中電灯の何が犯罪にあたるのかと、インターネット上では驚きが広がっている。
「他人の邸宅又は建物に侵入するのに使用されるような器具」
J-CASTニュースの2017年3月9日の取材に応じた福岡県警察本部の広報課担当者によると、今回の件で男が逮捕されたのは2月28日4時2分、場所は大野城市内の路上だった。容疑の内容については
「同日3時28分ごろ、正当な理由なく他人の邸宅又は建物に侵入するのに使用されるような器具である懐中電灯を隠して携帯していたものである」
と話している。本人の認否などはあきらかになっていない。
県警ウェブサイトにも「正当な理由なく、懐中電灯を隠して携帯していた容疑で逮捕しました」という情報が掲載されており、これがインターネット掲示板「2ちゃんねる」で取り上げられると、「懐中電灯」がおよそ犯罪と結びつかなかったためか、多くのユーザーが反応した。
「懐中なのに懐に入れて歩いたらアウトなのか」
「バットをなんの意味もなく持ち歩いてるやつがいたら怖いだろ。それと同じ。同じか・・・?」
「どゆこと。あいつ人んちに侵入するかもしれない罪にあたるってことか」
「懐中電灯ダメならペンライトもアウトじゃね?何が違うん?」
一体どういう罪なのか。アディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士はJ-CASTニュースの取材に対し、「県警の述べる犯罪事実の概要に照らすと、軽犯罪法上で該当するのは同法1条3号の侵入具携帯の罪であるものと考えられます」と話す。
軽犯罪法1条3号には確かに「正当な理由がなくて合かぎ、のみ、ガラス切りその他他人の邸宅又は建物に侵入するのに使用されるような器具を隠して携帯していた者」とあり、これに該当した場合「拘留又は科料に処する」と規定されている。
「ペンライト」の携帯で有罪認定した裁判例も
岩沙好幸弁護士によると、過去「ペンライト」の携帯を軽犯罪法違反として有罪認定した裁判例が1986年1月13日の東京地裁判決に存在する。そのため
「懐中電灯も、客観的な携帯の態様(隠していると言えるかどうか)、犯人の逮捕前の挙動(他人の邸宅等へ侵入する素振りがあったかどうか)、携行する正当理由があったかどうか(業務上の必要性など)を総合考慮し、軽犯罪法上の侵入具と認定される可能性は十分にあるでしょう」
と話している。
同条項で具体的に定めがある「器具」は「合かぎ」「のみ」「ガラス切り」で、あとは「その他他人の邸宅又は建物に侵入するのに使用されるような器具」とされている。懐中電灯以外にもこれに該当しそうな物として、ネット上ではドライバーセットや金属バット、護身用ナイフなどがあげられていた。岩沙弁護士はこうした物について次のように話す。
「裁判例でこれらの『器具』として認定されたものは、ハンマー、タイヤレンチ、金槌、ニッパー、スパナ、ボルトカッターなど様々です。したがって、サイズ・形状次第ではありますが『ドライバーセット』『金属バット』『護身用ナイフ』についても、正当な理由なく携帯していると同法に該当する可能性はあるでしょう」
同条項では「器具」のサイズの基準は定めがないが、「『隠して携帯』とあることから、隠して携帯することが困難な大きな器具は除外されるのではないかと推測されます」という。
ただ、同条項違反を認めるには条文上「正当な理由がな(い)」ことが必要だ。逆に、「正当な理由のある懐中電灯の携帯」としてはどんな状況が考えられるかを岩沙弁護士に聞くと、こう話した。
「例としては『夜間、土木工事に従事する者が対向車に自己を知らせる手段として懐中電灯を現場で携帯していること』などが挙げられます。また、『遠出をして散歩しようと、鳥目で夜間に視野が著しく迫る身体的特徴を持っている者が、帰宅が夜間になる場合に備え、いつでも取り出せるよう懐に懐中電灯を持っていた』場合も正当な理由と言えるでしょう」