「喫煙禁止になると客が減ってしまう」。飲食店などが危惧しているのが、厚生労働省が進める健康増進法の改正による受動喫煙対策の強化だ。
異論を唱える団体は、ほかにもある。全国の社会福祉団体や施設などが参加する「全国社会福祉協議会(全社協)」だ。健康のために受動喫煙対策を支持しそうだが、なぜ反対しているのか。
失踪や事故の可能性が高まる
「屋外は禁煙でもよいですが、社会福祉施設内の喫煙室設置は認めていただきたいと考えています」
J-CASTヘルスケアの取材に対し、全社協の担当者はこうこたえた。厚労省が2017年3月1日に発表した「受動喫煙防止対策の強化について(基本的な考え方の案)」によると、「老人福祉施設その他の相当数の健康上の配慮を要する者が利用する施設として政令で定めるもの」、つまり介護施設や障害者施設など社会福祉施設全般は屋内禁煙で、喫煙室の設置も認められないとされている。
屋外に「位置指定場所」として喫煙場所を指定することは認められているが、全社協の担当者は「高齢者や障害をお持ちの方が、喫煙のために屋外に出るというのは、失踪や事故などのアクシデントにあう可能性が高くなります」と懸念を示す。
担当者はさらに、全社協に参加している各都道府県の社会福祉協議会や社会福祉施設からも同様の声が集まっており、施設内の喫煙場所設置に関して一定の配慮を検討してもらえるよう、政府の作業部会や厚労省にも要望を伝えていると明かした。
日本たばこ産業(JT)の「2016年全国たばこ喫煙者率調査」によると、年代別の喫煙率は60歳以上の男性で22%、女性5.7%と20年前に比べると半減しているものの、高齢者だけを見ても一定数の喫煙者がいるため、社会福祉施設での喫煙室需要はあると考えられる。
施設側も対応に苦慮している
現場の職員はどう思っているのだろうか。受動喫煙という観点から考えると、喫煙場所が屋内でも屋外でも、職員が置かれる状況はあまり変わらないのではないか。
J-CASTヘルスケアが東京都内のある特別養護老人ホームの職員に取材をしたところ、「施設内に入所者専用喫煙所がある」と話してくれた。
「(タバコを)吸う人は3人で、1日に吸う本数を決めていただいています。(喫煙場所への)誘導や喫煙中の付添いは喫煙者の職員が担当しています。私自身は非喫煙者ですが、喫煙所に入ることはないので受動喫煙は気にはなっていません。規定上職員は勤務中の喫煙禁止なので、付添い者はあくまで一緒にいるだけです」
では、仮に屋内全面禁煙になると問題があるのか。
「屋外に喫煙場所を設置すると、そこに行っている間は職員が1人不在になります。室内なら声掛けも簡単ですが、屋外となると余裕がない時に困る可能性もありますね」
この特養では職員への受動喫煙に配慮しているが、施設によって対応は異なる。非喫煙者の職員だが入所者の喫煙中に付添わねばいけない施設があるかもしれない。
「嫌々付添いをしている職員がいるなら喫煙所のあり方も考えなければいけないかもしれませんが、『法律で決まったのだから、もう(屋内で)吸えません』と入所者に言うのも...。難しい問題だと思います」