妊婦が普段使っているものには、女性が妊娠しやすくなる「菌」が付いている――。そんな迷信のもと、普通の米が「妊娠米」と名付けられて高値で売買されるケースが続出している。
医学的な根拠が認められているものではないが、妊娠米を買い求める女性は意外にも後を絶たない。さらには、不妊に悩む女性の切実な思いを利用し、妊娠米を「小遣い稼ぎ」に利用するような動きもある。
「お腹を撫でて妊娠菌をたっぷりつけて...」
「お米と共に妊娠菌をお届けいたします」――。大手フリマアプリ「メルカリ」では、こんな売り文句で数多くの妊娠米が販売されている。いずれも、妊婦の「菌」が付いているという迷信を除けば、どこにでもある普通の米だ。
値段は、おおよそ1合あたり500円ほど。なかには、6人の子持ちだという点をアピールし、「強烈菌付妊娠米」とうたって出品するケースもあった。実際に出品された妊娠米の販売ページをみると、
「私の周りの友達が妊娠米をもらって8人妊婦なうです」
「ご購入頂いてから私が一合ずつ密封袋に入れて、お腹を撫でて妊娠菌をたっぷりつけてから発送させて頂きます」
といった文章が並んでいる。そのほか、出品者が妊婦であることを証明するためか、母子手帳や膨らんだお腹の写真を掲載しているケースもあった。
当然ながら、妊娠米は迷信に基づいたもので、医学的な効果が認められているものではない。だが、これが意外にも不妊に悩む女性の間で売れているのだ。
実際、「メルカリ」で過去の出品履歴を見ると、少なくとも数百件単位で妊娠米の売り買いが成立した例が見つかる。販売ページのコメント欄やツイッターには、
「妊婦さんからお米貰った。妊婦から米を貰うと妊娠するジンクスがあるらしい」
「妊娠米を始めてよかったと思います」
「一度試してみたいです よろしくお願い致します」
といった声が相次いで出ている。
「不妊に悩む人の中には、本当に思いつめて...」
いったい、妊娠米を出品しているのはどんな層なのだろうか。
「メルカリ」で確認した限りでは、一人のユーザーが大量に出品していることが多い。なかには、一人で20合以上の妊娠米を売り捌いたユーザーも。どうやら、不妊に悩む女性が切実に求める妊娠米を「小遣い稼ぎ」に利用する人が出ているようだ。
妊娠にまつわる「迷信」を利用したビジネスは米だけではない。妊婦が富士山と太陽の絵を赤いペンで描くと「子宝に恵まれるジンクス」があるとして、ただの絵を400~500円程度で販売する例も目立つ。また、使用済みのマタニティマークや基礎体温計なども人気商品の一つだ。
こうした現象について、不妊治療を専門とする「こまえクリニック」(東京都狛江市)の放生勲(ほうじょう・いさお)院長は2017年3月10日のJ-CASTニュースの取材に対し、
「もちろん、妊娠しやすくなる菌などというものに科学的根拠は一切ありません」
と断言。その上で、こうした商品を購入してしまう女性の心理について、
「不妊に悩む人の中には、本当に思いつめて袋小路に陥ってしまうケースもあります。例えば、両親から『孫はまだか』と執拗に急かされたりする場合です。そうした時に、何の根拠もないと分かりつつも、妊娠米や富士山の絵を『わらにもすがる思い』で購入してしまうのでしょう」
と分析していた。