夜10時にベッドの上で震えだすスマートフォン、発信者は「非通知」、おそるおそる電話に出ると、面接を受けた企業の人事担当者が選考通過を知らせてきた――。こんな経験に思わずうなずいてしまう人は多いだろう。就職活動中の学生なら尚更だ。
しかし今、この非通知の電話をめぐって、ある情報サイトの記事をきっかけに議論が巻き起こっている。「企業が個人に非通知で電話をかけるのは非常識極まりない」という批判も少なくない。行為の良し悪しはさて置き、なぜ企業は就職試験応募者に非通知の電話をかけるのか。専門家に聞いた。
深夜に非通知の電話がかかってくると...
議論に火をつけたのは、2017年3月8日に「NIKKEI STYLE」が公開した「電話は嫌い、非通知出ない 人事も驚く今どきの就活生」だ。
「見知らぬ大人との電話コミュニケーション」に戸惑う就活生の姿を描いた同記事。注目は、「『非通知』の電話には出ないという学生が少なくない」という就活サイト運営会社のコメントだ。
小説「あの子が欲しい」の作者・朝比奈あすかさんは同サイトの取材に、「非通知での電話連絡は、できるかぎり情報を開示せず人を採りたい、という採用側の傲慢さが出ている」と憤る。
ツイッターでも
「企業が個人に非通知で電話をかける方が非常識極まりない」
「あまりにも身勝手」
「時代と意識の変化に追いつけてない」
との反応が相次ぎ、非通知の電話に対する反感が高まっている。
確かに、企業は就活生に選考結果を伝える際、非通知の電話をかけることが多い。しかも、企業の人員的な問題で、そうした電話が夜遅くになることも珍しくない。
一方、学生が電話を使う機会はめっきり減っている。LINEやFacebookメッセンジャーといったアプリが浸透し、よほど親しい関係の人でないと電話連絡しなくなった。非通知の電話となれば、対応のハードルが跳ね上がるのは間違いなく、「せめて電話番号だけでも知らせてほしい」と悩む就活生も多いだろう。
「互いに悪意はないのに、ボタンが掛け違ったまま」
そもそも企業はなぜ非通知の電話をかけるのか。『キレイゴトぬきの就活論』(新潮新書)などの著書で知られる、大学ジャーナリスト・石渡嶺司さんはJ-CASTニュースの取材に2つの可能性を指摘する。
1つは、学生に採用セクションの直通番号を知られたくない担当者が意図的に非通知設定している可能性。2つはセキュリティ上の問題で担当者が意図せず非通知設定されている可能性だ。石渡さんは、後者の方が圧倒的に多いだろう、とみる。
「セキュリティ保持のため、人事とは別の部署が非通知に設定していることが多いですね。採用担当者もそこまで気を遣うわけではありませんから、結果的にそうなってしまいます。企業は『傲慢』なのではなく、良くも悪くも『無頓着』なだけでしょう」
学生側にすれば「通知・非通知」はすぐ切り替えられるはずだという思い込みがある。一方、企業側にすればシステム上の問題で、早期対処が難しい。
石渡さんいわく、双方は「互いに悪意はないのに、ボタンが掛け違ったまま」の状態だという。
とはいえ、就活サイトへのダイレクトメッセージやメールに連絡手段を切り替えるのも難しいようだ。
「企業が学生に電話をかける目的は、次の選考に進みたい、入社したい、という意思を直接確かめるためでもあります。ここで電話対応のスキルを見る企業もあるでしょう。一見アナログな電話の方が、ある意味『理にかなっている』とも言えます」
電話はすぐかけ直せても、「ボタンの掛け違い」はすぐ直せない、ということだろうか。