マレーシアで殺害された金正男(キム・ジョンナム)氏(45)の長男、ハンソル氏を名乗る男性の動画が2017年3月7日付でユーチューブに公開された。各国のメディアによると、韓国の情報機関、国家情報院は、動画に写った男性はハンソル氏本人だと見ているようだ。
早くも、ハンソル氏が保護された経緯や、同氏を保護したとみられる団体をめぐる様々な予想が展開されている。
韓国系の英語綴り、ドメイン作成は3月4日
ユーチューブに公開された動画には、「千里馬(チョンリマ)民間防衛」(Cheollima Civil Defense)のマークが入っており、動画の説明欄には、この団体の公式サイトとみられるサイトへのリンクも貼られている。この団体がハンソル氏を保護したとみられる。
千里馬は、1日に1000里を駆けるという伝説上の馬で、北朝鮮では社会主義建設の象徴として、しばしば登場する。動画のマークでは「Cheollima」と表記されているが、朝鮮中央通信が千里馬について報じる時の表記は「Chollima」。北朝鮮よりも韓国に近い言葉づかいをする人が、支援団体に関与している可能性が指摘されている。
また、「千里馬民間防衛」の公式サイトが置かれている住所にあたる「ドメイン」。このドメインは「cheollimacivildefense.org」というものだが、このサイトを開設した人は、ドメインの登録情報が公開されないようにするサービスを提供するパナマの会社を利用したことが明らかになっている。ドメインが作成されたのは3月4日。急ピッチで動画公開に向けた作業が進んだことがうかがえる。
ただ一人名前が上げられた駐韓オランダ大使の妻は韓国人
また、公式サイトでは、オランダ、中国、米国、それ以外の1国による「人道的支援に感謝」すると表明。これに加えて、オランダのエンブレフツ駐韓大使については唯一個人名を出して感謝を表明した。オランダは北朝鮮とも外交があり、駐韓大使が北朝鮮についても兼務している。
エンブレフツ氏15年に駐韓大使に着任、1993年から97年には大使館の経済部部長としてソウルで勤務したことがあり、ソウルでの勤務は2回目。英字紙のコリア・タイムズでは、外交筋の話として、妻は韓国人で、大使本人の韓国語も「かなり上手い」という。また、正男氏が殺害されたマレーシアの大使も2005年から09年にかけて務めていた。
エンブレフツ氏は各国メディアの直撃取材に対して「コメントできない」と繰り返しているが、こういった豊富な経験がハンソル氏の保護に役立てられた可能性がある。
わずか40秒の動画だが、背景の音にも注目が集まっている。TBSの「Nスタ」では、空調機器のモーター音から、50ヘルツの交流電源が使用された地域で収録されたとする分析結果を紹介。仮にこの分析が正しいとすると、60ヘルツを使用している韓国、北朝鮮、台湾などはハンソル氏が撮影された場所の候補から外れることになる。ただ、50ヘルツが使われている地域は、中国、ロシア、オランダを含むEU各国、日本の東半分など幅広く、動画が撮影された地域やハンソル氏の居場所はいまだ謎に包まれている。