森友学園問題が国会で話題になっている。政府答弁では、交渉記録を保存していなくても国有地の売却で「法令に即して適切に処理」という答弁が連発されている。
一般の感覚では、問題が起きているのにそれはないだろう、である。そもそも「法令」が適切だったのかを疑うのが先だろう。
「法令」という言葉がくせ者
しかし、官僚にとって「法令」は絶対である。これはある意味正しい。官僚は「法令」の執行機関であるから、「法令」からはずれて勝手に権力を振るわれたら国民としてはたまらない。ここでイメージしているのは、「法令」は、国民の代表である国会で作られ、それに官僚が従うというものだ。
しかし、この「法令」という言葉がくせ者だ。「法令」を正しく定義すれば、法律と命令で構成されている。法律は国会で作られるが、命令とは、政令や規則など官僚が作るものだ。
これで分かるだろう。「法令に即して適切に処理」とは、官僚が自ら作った命令で従ったのだから正しいという、上から目線が含まれているわけだ。
具体的に考えてみよう。交渉記録については、2009年7月に成立した公文書管理法による。09年9月民主党政権に交代後、10年12月公文書管理法施行令により具体的な文書保存期間が決められた。現実には、省庁レベルの文書管理規則による保存期間が決められている。この規則を作ったのは、国会ではなく官僚である。
現実に森友学園という問題が発生したのに、保存文書がないようでは仕事に支障が出ているだろう。現に国会でうまく答弁できていない。
そこまで官僚に裁量を与えていない
また、国有地の売却では異例な契約になっている。そもそも、会計法では原則入札である。会計法では、緊急性があるものは随意契約でいいと書いている。そのほかに「政令」でも随意契約は可能である(会計法第29条の3)。
今回の森友学園問題は、はじめから入札にしておけば問題はなかった。入札なら価格の妥当性も問題なく、価格公表も入札時に終わる。随意契約からスタートしているから、次々と問題が出てくる。
財務省は随意契約にしたのも「法令に即して適切に処理」という。しかし、これも、国会で作った法律ではなく官僚が作った「政令」によるものだ。競争入札の例外になるものが幅広く列挙されている。これでは、競争入札原則が危うくなってしまう。
財務省が自分たちが作った「政令」によるので適切に処理していると、立法府の国会で正々堂々と答弁し、それについて、野党から、そこまで官僚に裁量を与えていない、法律の範囲で事務をすべきという議論が出ないのだが、筆者には理解できない。
こうしたことを背景として3月8日、テレビ朝日の「ワイド!スクランブル」に出演し、今の会計法の原則を説明し、財務省の国会答弁はおかしいので国会で追及すべきと発言した。ところが、その後、財務省からテレビ朝日に対して筆者の発言への抗議があったようだ。
あくまで、財務省は自分たちが決めたことは正しいというスタンスなのだ。この際、「政令」により広範な権限を持っている財務省を、国会でしっかりチェックしたらいい。トランプ政権も、日本の政令に相当する大統領令でいろいろなことをやろうとすると、裁判所からのチェックが入る。三権分立の見本だ。財務省をチェックするために、とりあえず国会が国権最高機関としての役割を果たすべきだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ
ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に
「さらば財務省!」(講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)、「これが世界と日本経済の真実だ」(悟空出版)など。