ぬいぐるみが図書館に泊まり込み、みんなで絵本を読んで遊ぶ「ぬいぐるみ図書館お泊り会」(以下『お泊り会』)という催しが全国の図書館に広がっていることはご存じだろうか。ぬいぐるみが絵本を読む様子を図書館員が撮影し、後で子どもに見せると、喜んで自分も絵本を読むようになるという。
ところが、本当に絵本を読むようになるか確かめた研究はなかった。岡山大学、金沢大学、大阪工業大学、九州大学の合同研究チームが、「お泊り会」にぬいぐるみを参加させた子どもの読書意欲が高まることを明らかにし、オランダの科学誌「Heliyon」(電子版)の2017年2月28日に発表した。
ぬいぐるみ同士が絵本を読んでいる写真を見せる
J-CASTヘルスケアの取材に応じた研究チームの岡崎善弘・岡山大学講師(教育心理学)によると、「お泊り会」は2006年頃に米ペンシルベニア州の公立図書館で始まったといわれる。子どもからお気に入りのぬいぐるみをひと晩預かり、図書館でぬいぐるみたちが探検したり、他のぬいぐるみと遊んだり、一緒に絵本を読んだりしている様子を図書館員が撮影する。翌日、ぬいぐるみを迎えにきた子どもに写真と絵本を手渡し、「ぬいぐるみが絵本を読んでいたよ~」と伝えると、子どもが絵本や図書館を身近に感じ、絵本を読むことが好きになるという。
世界中に広がり、日本では、2010年12月に兵庫県の宝塚市立西図書館が「お泊り会」を開いたのが始まりといわれる。ぬいぐるみと一緒のおはなし会の後で、子どもはぬいぐるみを寝かしつけて帰る。そして翌日、ぬいぐるみが図書館で遊んでいる写真を子どもに渡した。また、ぬいぐるみが読んで気に入ったという設定の絵本も貸出した。その後、各地の図書館に広がった。ところが、本当に子どもが絵本を読むようになるかどうかを確かめた研究は発祥地の米国にもなかった。
岡崎講師はこう語る。
「これほど世界的に人気がある子どもの読書運動なのに、効果があるかどうかの研究がないことが不思議でした。考えてみれば、図書館では写真を渡した後の子どもの様子を確かめることはできません。そこで、本当に効果があるのか、もし、なかったらなかったで、効果をあげる方法をどうしたら提供できるか研究することにしました」
2人に1人がぬいぐるみに読み聞かせを始めた
研究チームは、3~5歳の幼稚園児42人に大好きなぬいぐるみたちを持ってきてもらった。キリン、クマ、チーター、ペンギンなど動物ばかりだ。地元の紀伊國屋書店クレド岡山店の協力を得て、ぬいぐるみたちが書店内をゾロゾロと探検、本棚から絵本を取り出し、仲良く顔を突き合わせて絵本を読んでいる場面などを約300枚撮影した。ペンギン親子が手をつないで書店内で本を探したり、ライオン君が絵本のライオンのおっかない顔にびっくりしたり、2匹のクマさんが絵本の「太っちょペンギン どのこかな?」のクイズを当てっこしたりと、それぞれのぬいぐるみにストーリーを作った。
「後で子どもたちに写真を見せると、『○○ちゃん(ぬいぐるみの名前)が本を読んでる!』と、とても喜んでいました」と岡崎講師。
保護者に確認すると、ぬいぐるみを返した当日は、42人中21人がぬいぐるみに本の読み聞かせを行なった。「お泊り会」の前は、読み聞かせをする子が2人しかいなかったから、10倍以上の効果である。その後、読み聞かせをする子は減り、3日目には4人になった。1か月後には2人に戻った。しかし、1か月後に子どもたちに「お泊り会」のエピソードを思い出させる語りかけを行なうと、ぬいぐるみに読み聞かせをする子は28人中14人に増えた。半分の子が再び読み始めたのだ。「お泊り会」は効果があることがわかった。ただし、効果が持続するのは3日間程度と短かった。
今回の研究成果について、岡崎講師はこう語っている。
「『お泊り会』のイベントをするだけで、子どもが自分から本を読むようになることが確認できたことは画期的です。今後は3日間の効果をもっと伸ばす方法を考えていきます。合同研究チームには工学系の研究者もいるので、『ポケモンGO』のように、ぬいぐるみが図書館内を探検するシーンを動画で見せるとか、子どもがぬいぐるみと対話するといった方法を研究していきます」